2025.04.24
イベント・講演会
次世代リーダーの創出を図る起業家 菊地恵理子氏を迎え、国際共創学部シンポジウムを開催
異なる価値観との出会いを通じ、ありえないを超える

今春、第2期生を迎える国際共創学部は、新入生向けの入学前教育の一環として3月15日(土)にシンポジウムを開催しました。第1部は、ゲストにお迎えしたタイガーモブ株式会社 代表取締役CEOの菊地恵理子氏による基調講演を実施。続いて第2部では、国際共創学部教員も加わって菊地氏とともに、海外経験をすることの意義や、これからの社会で必要とされる人材になるには何を意識して行動していけばいいのか、自身の経験も踏まえて語り合っていただきました。

[菊地恵理子氏 プロフィール] 関西学院大学総合政策学部、及びLee Kuan Yew School of Public Policy“ASEAN地政学プログラム”を卒業。在学中には中国など多くの国で人々と交流する。卒業後は人材会社に入社し、2年目に海外事業部を起ち上げ、海外インターン事業を始動する。2016年、タイガーモブ株式会社を起業。CEOとして活躍する傍ら、内閣府国際交流事業の在り方検討会の委員や、インフィニティ国際学院ナビゲーター、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、関西学院大学の非常勤講師などを務める。全国商工会議所女性連合会主催の女性起業家大賞スタートアップ部門特別賞、令和6年東京女性創業者優秀賞などを受賞。
海外へと飛び出し、実践から得る学びを

シンポジウムの第1部では、菊地氏による基調講演「Co-sparkでありえないを超えよう!」を実施しました。登壇した菊地氏は初めに、「皆さんのモットーを教えてほしい」と呼びかけました。冒頭から参加者を巻き込んでいく菊地氏の講演スタイルに少々戸惑いながらも、「当たって砕けろ」「一日一善」「やるなら全力で」と、指名された学生たちは自分が大切にしている言葉を口にします。菊地氏は大学を1年間休学してバックパッカーをしていた時から、出会う人々にモットーを尋ねていたそうです。「人を理解するには時間がかかるけれど、モットーを聞くと、その人の考えや価値観が何となくイメージできます。いろんな所を旅して、たくさんのモットーが集まりました」と、その理由を説明しました 。

菊地氏は北海道と東京の2か所に拠点を置き、1歳から5歳までの3児の母と経営者という2つの顔を持ち、慌ただしい日々を過ごしていると話します。学生時代にはアジアを中心に海外での留学やインターンシップ、一人旅を経験。卒業後、人材会社での勤務を経てタイガーモブ株式会社を起ち上げたという、自身の経歴も紹介しました。

タイガーモブは、短期の海外研修プログラムのほか、長期にわたる海外インターンシップなど、世界45カ国で350件以上の海外での実践機会を中高生・大学生に提供する企業です。「日本財団による18歳の意識調査で、他国に比べて日本は特に、『自分で国や社会を変えられる』と考えている人の割合がとても低いという結果が出ています。そうした現状を変えるために、 “Learning By Doing”をコンセプトとし、世界、社会へと飛び出して実践から学びを得て、当たり前を変える機会を届けたいと考えています 」と、菊地氏は語ります。

参加者にモットーをインタビューする菊地氏
自身のwant toを見つけて、自分らしさを追求

「ありえないを超えよう。」をテーマとし、 “これまでの常識を超えて、これからの常識を創り出す”グローバル人材を育成するという、国際共創学部が掲げる教育理念について、「まさに、そうした人材が必要とされている」と共感する菊地氏。その上で、どうすれば目指す人材へと成長していけるのか、自身の見解を示しました。

タイガーモブが考える“共創”とは、“Co-spark”だといいます。この言葉はオリジナルの造語です。「私たちの会社が最も大切にしている価値観(バリュー)で、あなたも私もともに輝くという意味です。たとえば2人の人がいた時に、どちらか1人だけの考えよりも、2人の“らしさ”を集めてこそできることがあるのではないかと思っています」。

では、その人らしさとはどのように見つけるのでしょうか。「人によって、ワクワクすると感じるもの、まったく興味がないものは異なります。それがそれぞれの人の“らしさ”であり、すばらしい違いです」 と菊地氏は言います。そして、「あなたのwant toは何でしょうか」と参加者に問いかけました。「たとえ報酬がなくても、やめろと言われてもやり続けてしまうこと、やること自体が楽しくて熱中するようなことをwant toと呼びます。このような自分にとっての根源的な欲求は何かと考えることが自分らしさを見つけるヒントとなるでしょう。“らしさ”を追求していくことこそが、皆さんの人生、そしてこれからの社会や未来を拡張していく原点になると思います」。

越境と内省を繰り返し、自分を変える

学生時代に限らず、人生を通じて、“越境”と“内省”を繰り返していくことが重要だと、さらに菊地氏は述べます。「高校から大学へと進学するのも越境の一つ。越境すれば、元いた場所からの視点に、新たな地点からの視点が加わります。越境先が増えれば増えるほど、俯瞰して自分や物事を見られるようになるでしょう。また、越境して行動し続けるだけでなく、内省する、振り返る時間も大切です」。

菊地氏は海外に越境するメリットを3つ挙げます。1つ目は、“井の中の蛙からの脱却”。価値観の異なる人や文化との出会いから、メタ認知が高まると菊地氏は言います。メタ認知とは、自分自身を客観的に認知する力のことです。「何かしらの出来事があった時、芽生えた感情を振り返ってみると、自分がどのような価値観を持っているのかを知ることができます。海外ではアイデンティティを揺さぶられるような経験がたくさんあるから、メタ認知が高まるのです。そして、自分自身を認知できると、他の人にもそれぞれの感情や価値観があることを理解できるようになり、共創への一歩につながると思っています」。

2つ目は、“逆境に強くなること”。菊地氏自身、海外に行くと自分の常識が通じなくて驚くような場面が多くあり、ストレスを感じることがあったそうです。しかし、マハトマ・ガンジーの「人間はその人の思考の産物に過ぎない。人は思っている通りになる」という言葉を知ってから、逆境をむしろ楽しめるようになったと言います。「この言葉を私は、人間は自分の考えている範囲内でしか動けないのだと解釈し、思考の幅が広がれば人生がより豊かになるのではないかと考えました。すると、ストレスを感じるような経験は半強制的に思考の幅を広げることにつながっているのだから、良い経験なのだと気づきました。いろんな出来事や考え方を柔軟に受け入れ、違いを面白いと感じ、もっと知りたいと思えるようになったのです」。

3つ目は、“選択肢が広がる上に、やった時のイメージがつかめるから、どんどん挑戦しやすくなること”だと言います。「やってみると挑戦へのハードルが下がり、軽やかに何でもできるようになります」と、菊地氏はチャレンジへ向かう気持ちを後押しします。

答えのない課題を探究し、新たな価値を創造できる人材へ

“両利きの経営”という経営理論に着目し、企業で求められている人材像についても話しました。両利きの経営とは、メイン事業を改善する“知の深化”と新規事業を開拓する“知の探索”の両立を重視する理論です。今、企業では“知の探索”が課題とされ、答えがない課題について探索し続け、新しい何かを創造できる人材が求められていると、菊地氏は言います。また、先の見えない時代に対応していくため、ポジティブケイパビリティ(課題を明確にし解決する力)に加え、ネガティブケイパビリティ(答えのない事態に耐え抜く力)も必要だという考えを示しました。

「答えのない課題について自分の頭で考え、何があっても追究し続けるのは、とても難しいこと。でも皆さんには、そういう困難な状況をチャンスに変えてほしい。そして、その困難に立ち向かう時に使えるのが、want toです。自分がやりたくてたまらないことなら、やり続けられます。自分らしさを大切にしながら探究し続けた先に、あなたも私もともに輝く社会が実現できるのではないかと思っています」。

「人生を広げるキーワードとして、“Learning By Doing”という言葉を覚えて帰ってほしい」と語りかける菊地氏。「チャレンジするまでには不安や迷いもあると思うけれど、思いきって飛び込んでみてください。心に火がつくポイントはそれぞれ違うから、いろいろな“Learning By Doing”を経験することによって、自分はこれがやりたいんだというスイッチが入ればいいなと願っています」と学生たちにメッセージを贈りました。

菊地氏と国際共創学部教員が語る、海外経験から得られるもの

第2部では、国際共創学部長の沖浦文彦教授がファシリテーターを務め、菊地氏と国際共創学部教員の滝澤克彦教授、柗永佳甫教授が登壇してパネルディスカッションを行いました。

写真左から沖浦学部長、滝澤教授、柗永教授、菊地氏

まず、2人の本学教員が自身の海外での経験を語りました。モンゴルの宗教と文化を中心に研究を行う滝澤教授は、モンゴルを訪れた時の経験を振り返ります。「モンゴルの人々はおおらかで自由に生きており、日本とはまったく違う文化や社会のルールに驚かされました。でも、そこで過ごしていると、その国の常識に馴染んでいき、いつの間にか自分が変わっていきます。また、モンゴル語が話せないうちは、言葉が音として耳に入ってきます。ところが、話せるようになるともう言葉としてしか聞こえない。こうした1回きりの経験を積み重ねるのも、自分を豊かにしてくれると感じました。異文化の中に入っていくのは、自分も知らないうちに変わっていく、広がっていく面白さがあります」。

熊本出身の柗永教授が初めて海外へと飛び出したのは、大学生の時。交換留学生としてアメリカのモンタナ州に滞在しました。「最初は言葉の壁に妨げられましたが、拙い英語でも話している内容が重要であれば、相手が耳を傾けてくれることに気づきました。話の引き出しを増やせば、海外の人ともたくさん話ができます。本学にはいろんな挑戦ができるプログラムが揃っているので、自信のあるなしに関わらず、まずやってみたらいいと思います。もし失敗したとしても、それで人生が終わるわけじゃありません。また他の挑戦をしてみればいいし、そうして試行錯誤する中で自分にピタッとはまるものを見つける4年間にしてほしい」。

2人の話を受け、国際協力機構(JICA)で長くODA(政府開発援助)の実務に携わって世界各国を訪れてきた沖浦学部長は、「日本でも価値観の異なる人との共創ができるけれど、やはり海外となると言葉や文化、法律なども違うから振れ幅が大きい。一度経験すると、いろんなことを得られるのでぜひチャレンジしてほしいと思っています」と話します。菊地氏も中国でのインターンシップの際に、「仕事は受け身で待つのではなく、自分から作りにいくものだ」と意識が大きく変わる経験となったエピソードを披露しました。

“一歩でも前へ”、参加者にエール

また、高校までとは違う大学での学びとはどのようなものなのか、そしてその学びの中で身につけてほしいことや学生たちへの期待など、 これから大学生活を始める新入生に向けたメッセージも語られました。

最後に、菊地氏は「今日の話を聞いて、何かアクションしたいと思えることは見つかったでしょうか。見つかったのであれば、周囲の人に話してみるとか、ちょっとした一歩でもいいので前に進んでみてください。チャンスは自ら掴みにいくものです」と参加者に呼びかけ、シンポジウムを締めくくりました。

自分の常識を超えた価値観との出会いによって、自分が変わっていけるかもしれない。そんなワクワクする大学生活が待っていると、参加者たちに感じさせてくれるシンポジウムとなりました。そして、社会を変えていけるようなグローバル人材へと成長していくためにどのように行動していけばいいのか、たくさんのヒントを得られたのではないでしょうか。

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