2025.11.12
イベント・講演会
人・動物・地域がつながる新しい共生のかたち―講演会「One Welfare2025 ~人も動物も~」

2025年10月25日(土)、「絆を育む:人・動物・地域をつなぐ動物ボランティアのススメ」をテーマにした講演会「One Welfare2025 ~人も動物も~」を開催しました。北海道・大阪府・兵庫県から動物保護団体の代表が登壇し、高齢者支援と動物保護をつなぐ実践的な取り組みを紹介しました。

はじめに、経済学部の本村光江教授が、高齢者がペットを飼う際の課題や、ペットとの生活が健康維持にどのように寄与するかについて説明しました。日本は高齢化社会を迎え、健康寿命を延ばすことへの関心が高まっています。そんな中で、ペットがシニア世代にもたらす心身の健康効果が注目されています。ペットとのふれあいは孤独感の軽減や生活の質の向上に寄与し、シニアの生活に潤いをもたらします。

一方で、「万が一の際にペットの世話をしてくれる人がいない」「譲渡条件が厳しく飼えない」などの不安も多く、高齢者がペットを迎えるハードルは高いのが現状です。殺処分ゼロを目指す動きが活発化する中、自治体や民間保護団体は、後見人の確保や年齢制限など、シニアへの譲渡に慎重な対応を取る例もあります。また、保護団体に団体譲渡する自治体も増え、民間団体の負担増や活動継続の難しさ、多頭飼育崩壊につながるケースも報告されています。こうした状況を踏まえ、ペットと共に暮らすことの価値を認めつつ、持続可能な飼育環境と支援体制の整備が求められています。

経済学部 本村光江教授
ワンウェルフェアという新しい共生の考え方

これらの課題解決に向けて、高齢者支援と動物保護を結ぶ新たな取り組みが民間の保護団体を中心に始まっています。背景には、人間だけでなく、人・動物・環境が互いに影響し合い、共に健やかに暮らせる社会を目指す「ワンウェルフェア(One Welfare)」の理念があります。

これは、動物の福祉を向上させることが、人の生活の質や地域環境の向上にもつながる、というものです。人と動物が支え合い、環境にも配慮した持続可能な社会の実現に向けて、まさにこの理念を体現する3つの動物保護団体が活動報告を行いました。

ツキネコ北海道(北海道) 代表:吉井 美穂子

「永年預かり制度Ⓡ」の仕組みを全国へ

北海道を拠点に行き場を失った猫を保護し、新しい家族との出会いを支援するNPO法人「ツキネコ北海道」は、2025年で設立15周年を迎えます。保護猫シェルター「ツキネコカフェ」を中心に、猫の保護・里親探し、終生飼育の啓発、地域住民との交流など幅広い活動を展開しています。

なかでも注目されているのが「永年預かり制度Ⓡ」です。この制度は、猫の所有権をツキネコに残したまま、一般家庭で預かってもらう仕組みで、預かり期限を設けず高齢者でも安心して猫と暮らせるよう設計されています。万が一の際にはツキネコが引き取ることができるため、「猫と暮らす喜びを、元気なシニア世代にも」という思いが形になった制度です。現在、利用者は400人を超え、制度を通じて512匹の猫が預けられ、うちツキネコに戻ってきたのはたった31匹です。「戻ってこられる場所を維持し続けることが団体の責任」と考えるツキネコは、活動の永続性を重視しつつ、今後は全国にこの制度が広まるように精力的に活動をしていきたいと考えています。

吉井氏は「この仕組みを全国に広げたい」と語り、保護団体やボランティアに制度活用を呼びかけました。

ツキネコ北海道 代表 吉井美穂子氏
ねこから目線。(大阪府) 代表:小池 英梨子

 「猫専門の便利屋」として有料サービスを展開

「ねこから目線。」は、野良猫や保護猫を対象とした「猫専門の便利屋」として、有料サービスを提供する企業です。地域で増え続ける野良猫問題や、高齢者のペット飼育の難しさに対し、「ボランティアに頼る」か「自分で何とかする」しかなかった状況へ、第三の選択肢として“サービスを使う”という新しい仕組みを提案しています。

活動の中心は、迷子猫の捜索や不妊手術を前提とした捕獲・リターン(TNR)支援です。猫にも人にもメリットがある場合にのみ関わる姿勢を貫き、地域トラブルの防止に取り組んでいます。さらに、高齢者のペット飼育支援として「飼い続ける支援」と「飼い始める支援」を開始しました。「飼い続ける支援」では、月1回の訪問でトイレ掃除や爪切り、写真報告などを行い、猫の健康と飼い主の生活状況を見守ります。「飼い始める支援」では、譲渡の立ち会いや引き取り保証を含む体制を整え、安全に猫を迎えられるよう支援します。

小池氏は「猫と人が安心して暮らせる社会の実現を目指し、持続可能な支援を展開していきたい」と話しました。

ねこから目線。 代表 小池英梨子氏
teamねこのて(兵庫県) 代表:水野 直美

「終生預かり」と「見守り支援」で心に寄り添う

「teamねこのて」は、保護と譲渡を中心に活動するボランティア団体で、とくに高齢者とペットの関係に寄り添う「終生預かり」と「見守り支援」に力を入れています。猫の命を守るだけでなく、飼い主の生活や心にも寄り添うことを大切にしています。

活動のきっかけは、高齢者から猫を引き取るケースの増加でした。訪問看護師から「猫の引き取り先がない」と相談を受け、引き取った白猫「大ちゃん」は、紹介した新たな高齢者のもとで穏やかに暮らしています。また、寝たきりの高齢者から預かった猫「みいち」には、引き取り前に40日間の見守り支援を実施し、飼い主と信頼関係を築いた上で保護しました。

ねこのては、飼い主が元気なうちに信頼関係を築き、「何かあった時もこの子は安心」と思える環境づくりに努めています。病院とも連携し、「猫がいるから入院できない」というケースにも対応できる相談体制を整えています。

水野氏は「猫の命をつなぐことは、人の心を支えることでもあります。高齢者と猫の両方が安心できる仕組みを、地域の力で広げていきたい」と語りました。

teamねこのて 代表 水野直美氏
大阪経済大学 教授:本村 光江

共感できる団体を見つけて支援を

高齢者が亡くなった後に取り残されるペットや、ペットの存在によって治療や入院をためらう高齢者の存在は、社会の中で見過ごされがちな課題であると指摘しました。見守り支援や預かり制度を通じて行き場を失った動物を保護することは、人と動物の双方のウェルフェア向上につながります。また、動物の見守りは高齢者自身の見守りにもつながり、支援を受ける側・提供する側の双方に喜びを生み出すと述べました。

地域とのつながりが深まり、絆が育まれることで、人と動物の福祉がともに高まっていくとし、最後に「助けを必要とする人と動物がいる今、共感できる団体を見つけ、支援の一歩を踏み出してほしい」と呼びかけました。

この記事のキーワード
この記事をシェア