2026.03.14
イベント・講演会
介護人材不足が深刻化する中、外国人材受け入れの課題を議論
第1回 外国人介護人材セミナー「外国人介護人材の今とこれから」を開催

日本では高齢化の進行に伴い、介護人材の不足が深刻な社会課題となっています。2040年代には約57万人の介護人材が不足すると推計されており、介護サービスの維持や質の確保が大きな課題となっています。

こうした状況を背景に、政府は外国人介護人材の受け入れ拡大を進めています。現在、日本ではEPA(経済連携協定に基づく受け入れ)、在留資格「介護」、技能実習、特定技能1号の4つの制度を通じて外国人材の受け入れが行われています。しかし、制度の拡充だけで人材不足の解消や介護の質の確保につながるのかについては、さまざまな議論が続いています。

こうした社会的課題をテーマに、2026年2月23日(月・祝)、大阪経済大学において第1回 外国人介護人材セミナー「外国人介護人材の今とこれから」が開催されました。本セミナーは本学経済学部の森詩恵教授の主催により実施され、研究者、介護事業者、人材育成の関係者が参加し、外国人介護人材をめぐる制度と現場の課題について議論が行われました。

外国人介護人材受け入れ制度の現状
大阪経済大学大学院経済学研究科経済政策専攻博士後期課程3年/京都府立大学非常勤講師/介護福祉士 馬文博氏

セミナーではまず、大阪経済大学大学院経済学研究科経済政策専攻博士後期課程3年で、京都府立大学非常勤講師を務め、介護福祉士としての現場経験も持つ馬文博氏が、外国人介護人材受け入れ制度の全体像について解説しました。

外国人介護人材の受け入れ制度には、EPA、在留資格「介護」、技能実習、特定技能1号など複数の制度があり、それぞれ受け入れの目的や求められる日本語能力、資格要件などが異なります。馬氏は、これらの制度が政府資料などでは横並びで紹介されることが多く、制度ごとの違いが見えにくくなっている点を指摘しました。

また、より高い専門性や日本語能力が求められる制度で要件を満たせなかった場合、別の制度が受け皿となる構造があることにも言及しました。その結果、現場では日本語能力や専門性の水準が異なる人材が混在する可能性があるといいます。

さらに、技能実習制度は本来「技能移転」を目的とした制度であり、制度上は研修として位置づけられています。一方で、現場では制度目的の違いにかかわらず介護の担い手として活用されている実態があり、制度設計と現場運用の間に生じる課題について説明がありました。

介護の現場と人材育成の課題
ライフケア代表取締役 一谷勇一郎氏

続いて行われたパネルディスカッションでは、経営者、人材育成、介護福祉士それぞれの立場から、外国人介護人材の受け入れに関する現場の課題や人材育成のあり方について議論が行われました。

株式会社ライフケア代表取締役の一谷勇一郎氏は、23年間介護事業を経営してきた経験を踏まえ、外国人介護人材の受け入れを「安い労働力」という発想で考えるべきではないと述べました。外国人材の受け入れには初期費用がかかり、一般的には100万円から150万円程度の費用が必要になるとされていると説明しました。そのため、受け入れを「投資」として考えるのであれば、長期雇用を前提とし、離職を防ぐことが重要になると指摘しました。

また、外国人職員が日本人職員との待遇差を感じたときに、不公平感が生まれる可能性があるとも述べました。例えば、給与や休暇などの条件に納得して就職したとしても、実際に働く中で日本人職員に賞与や昇給があることを知ると、不公平感を抱き転職を考えるきっかけになることがあると説明しました。このような相対的剥奪感が生まれないよう配慮することが、受け入れ側にとって重要であると語りました。

さらに、日本語能力についても言及しました。日本語能力試験は「読む」「聞く」能力を中心に評価するため、実際の会話能力とは差が生じる場合があります。こうした点を踏まえ、業務を通じて自然に日本語が身につくと考えるのではなく、職場で意識的に会話の機会を設けること、また困ったときに相談できる環境を整えることが重要であると説明しました。

また、外国人材の定着には職場だけでなく地域の受け入れも重要であるとし、滋賀県の福祉施設の事例を挙げ、その施設では地域住民が使わなくなった冷蔵庫や電子レンジなどを持ち寄り、生活環境を整える取り組みを紹介しました。このように地域全体で受け入れる環境をつくることが、外国人職員が安心して働き続けることにつながると述べました。

一方で、外国人材の受け入れには教育体制の整備やICT導入などのコストが必要になることにも触れました。そのため、小規模な事業所では受け入れが難しい場合もあるとし、事業所の規模や体制に応じて戦略的に考える必要があると指摘しました。

一般社団法人国際介護人材育成事業団理事 小國英夫氏

一般社団法人国際介護人材育成事業団理事の小國英夫氏は、人材育成の視点から、言葉の問題と介護の考え方の共有という二つの課題について話しました。日本語はひらがな、カタカナ、漢字など複数の文字体系を持つ言語であり、習得が難しい言語の一つであるとしたうえで、日本で働こうとする外国人材は意欲が高い人たちであると述べました。そのため、人手不足だから外国人でもよいという考え方ではなく、そうした人材を大切にする姿勢が必要だと指摘しました。

また、介護の現場では技術だけでなく、ケアの考え方を共有することも重要であると説明しました。日本の介護では身体機能に着目した支援が中心になりがちである一方で、本人が望む生活をどう支えるかという視点も重要であると述べました。さらに、介護現場では専門用語や略語が多く使われることがあるため、誰にでも分かる言葉で説明することが大切であると語りました。

馬文博氏

介護福祉士としての経験を持つ馬文博氏は、外国人介護人材はすでに日本の介護現場で日本人職員と同じ業務を担う存在になっていると述べました。夜勤や入浴介助、食事介助、記録業務など、日本人職員と同じ現場で働いているといいます。

一方で、日本の介護現場には「空気を読む」といった暗黙のコミュニケーションが多く、外国人職員にとって理解が難しい場合があるとも指摘しました。そのため、受け入れ側が伝えたつもりにならず、理解できているかを確認する姿勢が重要であると述べました。

また馬氏は、日本の介護現場で重視される自立支援についても説明しました。例えば、高齢者が物を落とした際にすぐに拾うのではなく、本人が動ける場合には自分で拾ってもらうことで身体機能の維持につながるという考え方があるといいます。このようなケアの考え方は言葉で説明しなければ理解が難しいため、背景まで丁寧に共有することが大切であると語りました。

さらに、外国人職員の真面目さや学ぼうとする姿勢が、介護現場に良い影響を与えることもあると述べました。外国人職員からの質問によって、日本人職員がこれまで当たり前だと思っていたケアを見直す機会になる場合もあるといいます。

そのうえで馬氏は、外国人介護人材の受け入れは人手不足への対応という側面だけでなく、介護の専門性やケアのあり方を改めて考える機会にもなると述べました。外国人介護人材を「すぐに使える労働力」としてではなく、共に成長する専門職として育てていく視点が重要であると指摘しました。

介護の未来を考える

第2回 外国人介護人材セミナーは3月15日(日)に開催予定です。テーマは「外国人介護人材の受け入れと課題」で、外国人材受け入れ制度の最新動向を取り上げます。とりわけ、厚生労働省が導入を進めている「育成就労制度」について、制度の概要や背景、現場への影響などの解説が予定されています。

育成就労制度は、現在の技能実習制度の見直しを背景に創設が予定されている制度であり、制度運用開始まで残り約1年とされる中、介護分野においても関心が高まっています。第2回では、制度への理解を深めるとともに、外国人介護人材の受け入れと育成のあり方について、さらに議論を深めていく予定です。

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