今春、第3期生を迎える国際共創学部は、新入生向けの入学前教育の一環として、2026年3月21日(土)にシンポジウムを開催しました。第1部では、株式会社オシンテック代表取締役の小田真人氏による基調講演を実施。続く第2部では、国際共創学部教員も加わったパネルディスカッションを行い、これからの時代に求められる学びや、大学生活の中で育みたい視点について語り合っていただきました。
シンポジウムの第1部では、小田氏による基調講演「世界を知り、未来を創ろう 今の時代だから出来ることがある」を実施しました。株式会社オシンテックで、世界中の環境・人権・ESGなどに関するルール形成の一次情報を閲覧できるWebサービス「RuleWatcher」を提供している小田氏。きっかけは、海外で働いていた頃に“ルールの壁”に直面したことだったといいます。
「日本では環境性能の高い車として知られるトヨタのプリウスが、中国ではエコカーに認定されず、エコカー助成金がもらえないことを知りました。その一方で、フォルクスワーゲンはエコカー助成金の対象となり、中国で大きく売上を伸ばしていたのです」
なぜ、中国と日本でここまでルールが違うのか——このときに「ルールは誰がどうやって決めているのか」という問いが生まれた小田氏は、2018年に起業。そして、2020年に、世界のルール形成を一次情報にもとづいて確認できる「RuleWatcher」を公開しました。
「私は、声が大きい人の意見ばかりを通すのではなく、ルールはみんなで決めていくことが大切だと思っています。ただ、そのためにはまず、世界でどのようなルールづくりが進んでいるかを多くの人が知る必要があります。そうした思いから、このサービスを作りたいと考えました」
さらに、小田氏は「RuleWatcher」で見つけた多言語の情報も、クリックするだけで翻訳できることにも触れ、「今の学生たちは、かつての世代には難しかった多言語の情報にも簡単にアクセスできるようになっています。言うなれば、あなたたちはテクノロジーによって言語の壁を簡単に越えられる第一世代です。ぜひ、この特権を生かしてさまざまな情報に触れてください」と、力強く話しました。
小田氏は、大学に入るまで他人からの評価を基準に生きていたものの、大学時代にインターネットに出会い、初めて自分がやりたいことが明確になったと振り返ります。
「誰かに求められたから、評価されたいからではなく、自分が心の底から興味があると思えることに向き合う。その違いが、大学生活の充実度や、その後の生き方にも大きく関わってきます。何より、楽しんで夢中になっている人には誰も勝てないんです」
そう話す小田氏自身、寝ても覚めても仕事に関することを考えるのが楽しいのだそう。それは、小田氏が「自分がやりたいこと」を見つけ、他人軸ではなく自分軸で生きているからに他なりません。
「みなさんも、これからの大学生活で、ぜひ自分の内側にある欲望が何かをじっくり見つめるようにしてください。自分軸で生きることは、きっと人生に豊かさをもたらします」
さらに、小田氏は「AIをはじめ、新しい技術が次々と登場する現代において、将来どんな仕事が生まれ、何が必要とされるのかを正確に予測することは簡単ではありません。だからこそ、『何になりたいか』よりも『どんなふうに生きていきたいか』を考えることのほうが大切ではないでしょうか」とも。そんな熱いメッセージに、参加者は真剣に聞き入っていました。
講演では、情報があふれる現代を生きる私たちにとって、大切な「情報との向き合い方」についても印象的な話が続きました。例として紹介されたのが、「最近、二宮金次郎像が盗まれた」というニュースです。このとき、ニュースをそのまま受け止めるのではなく「なぜ盗まれるのか」と問いを立てることで、銅の価格上昇、電線需要の増加、再生可能エネルギーの普及へと視野が広がっていきます。さらに、チリやペルーといった銅の主要生産国と日本との関係や、そうしたニュースの背景まで見えてくるかもしれません。小田氏は「こうした小さな違和感を無視せず、調べ、知ったことを網の目のようにつなげていくことが、インテリジェンスに繋がるのです」と説明しました。
さらに、世界全体の情報のうち、日本語で得られる情報はごく一部にすぎないことにも触れ、その限られた範囲だけで世界を判断してしまう危うさを指摘した小田氏。自分で調べることの重要性を強調したうえで紹介したのが、「視点」「視野」「視座」の3つの考え方です。誰の立場から考えるのかという「視点」、どの範囲まで広げて見るかという「視野」、どの程度の抽象度で捉えるかという「視座」。これらを意識することで、物事の見え方は大きく変わってくるといいます。
「私たちは日々、SNSや検索サービスを通して大量の情報に触れていますが、それだけでは世界を理解したことにはなりません。断片的な情報がストーリーとしてつながった時、初めて頭の中に知識として蓄積され、自分なりの見立てにつながっていきます。自分でちゃんと調べてみると、まったく違った事実が見えてくることもある。だから、ぜひ『視点』『視野』『視座』を意識しながら情報に向き合い、自分の力で考えることを大切にしてください」
講演の後半では、気候変動、資源、廃棄物、水、エネルギーといった地球規模の課題についても話が広がりました。小田氏は、こうしたテーマを「気が滅入る話」として捉えるのではなく、「みんなの時代の仕事がここにある」と前向きに語ります。今の社会には多くの課題がありますが、その一方で、過去にはなかったテクノロジーや知の力もある。だからこそ、課題解決は悲観するためのものではなく、新しい価値を生み出す出発点になるのです。
「例えば、水資源をめぐる争いが起きる世界では、水に関する技術が大きな力を持つかもしれません。除草剤を減らす必要があるなら、竹のような膨大で身近な素材が意外にも役立つかもしれない。断熱性の低い住宅が問題になるなら、建築素材や政策の面で新しい工夫が必要になります。こうした新しい価値の起点には『このままでは嫌だ』というネガティブな気持ちがあります。ですから、ネガティブな感情を恐れずにしっかり向き合うと、自分がやるべきことが見えてくるかもしれません」
講演の最後に小田氏は「国際共創とは、ただ相手を理解し支援することではなく『自分はどんな人間なのか』に答えられてこそ成り立つものです」と語りました。自分自身の価値観や問題意識を持って物事に向き合うことで、はじめて相手との間に“対話”が生まれ、そこから共に新しい価値をつくる“共創”へとつながっていく。だから、この4年間で自分の「軸」をつくり、学び、知識を増やしてほしい——小田氏の激励は、これから始まる大学生活を通して、自分らしい問いを見つけていくことの大切さを感じさせるものでした。
第2部では、国際共創学部の熊澤輝一教授、坂倉孝雄准教授も登壇し、小田氏とともにパネルディスカッションを行いました。
熊澤教授から「『問いを立てる力』や『見立てる力』を、学生たちはどう育てるべきか」という問いが投げかけられると、小田氏は「大切なのは自分と意見が違う人と積極的に話すことだと思います」と答えました。自分と考えの合う相手と一緒にいるのは心地よいものですが、それだけでは視野は広がりません。なぜその人はそう考えるのか、その背景にはどんな経験や価値観があるのかを想像しながら対話することが、新しい発見や見立てにつながるといいます。さらに小田氏は「あなたがなぜそういうふうに考えるのか、勉強させてください」という姿勢が大事だと続けました。
「異なる意見を持つ人を遠ざけるのではなく、その違いの理由に関心を持つこと。そこから、自分一人では思いつかなかった考え方が生まれることもあります。大学は、知識を得るだけの場所ではなく、人と人が集まり、対話し、合意形成を経験する場所でもあると思います」
合意形成については、「最初に共通のゴールを確認することが大切」という話も印象的でした。意見が食い違うとき、人はつい「私はこう思う」「いや私は違う」と主張しがちです。しかし、その前に「私たちは何をめざしているのか」という共通の目的を確認しておけば、意見の違いを受け止めやすくなります。これは、異なる文化や価値観を持つ人々と協働する「国際共創」の考え方にも通じるものです。学内での対話やグループワークも、将来の共創の練習の場になることが感じられました。
一方で、坂倉准教授は「逆説的ですが、情報があふれ、便利なツールがたくさん開発されている現代では、自分軸を見つけにくくなっているように感じます」と指摘しました。小田氏はその点について「自分の自由な時間を、受動的なことで埋め尽くさないことが大事だと思います」と、回答。「周囲から次々に勧められることに流されるのではなく、自分が何に時間を使いたいのかを考えること。そうした姿勢が、自分と向き合う時間を守り、学びを深める土台になるのだと思います」と、その意図を説明しました。
小田氏自身、学びの時間を作ることを大切にしており、現在も昼休みの時間にオンラインの勉強会に参加しているそうです。
「フランス革命は、当時の勉強会やサロンで熱心な議論が交わされていたことが始まりだといわれています。また、コンピュータ愛好家が集う勉強会で生まれたアイデアが、Appleの前身となるApple Computer Company創業のきっかけとなったのも有名な話です。つまり、世の中を変えてきたものは、勉強会が起点になっていることが多い。ですから、みなさんも積極的にさまざまな場に参加し、充実した4年間を過ごしてください」
「他人軸ではなく自分軸で生きること」「情報をつなげて考えること」「異なる価値観と対話すること」——今回のシンポジウムで示されたこれらの視点は、これからの大学生活を考えるうえで大きな道しるべとなりそうです。自分の常識を超える出会いの中で視野を広げ、自分なりの問いを持ちながら行動していくこと。その積み重ねこそが、社会をよりよい方向へ導くグローバル人材としての成長につながっていくのだと、多くの人が実感できたのではないでしょうか。