2026年7月4日(土)、経済学部・上宮智之ゼミ企画による特別セミナー「ビールセミナー」が開催されました。当日は、英国風パブ「HUB」を運営する株式会社ハブ、キリンビール神戸工場、小西酒造株式会社、三田市まちのブランド観光課のみなさまが登壇。「HUB」の歩みやクラフトビールの多様性、ビールの開発秘話、三田ビール検定など、さまざまな切り口からビール文化に迫りました。後半には試飲会も行われ、講義で得た知識を活かしながら、香りや味わい、料理との組み合わせを体験する機会となりました。なお、本セミナーは今年の三田ビール検定(※)に向けたオープンセミナーにも位置づけられています。
※三田ビール検定とは
兵庫県三田市が主催する、ご当地検定。幕末に日本人として初めてビール醸造の実験に成功したとされる蘭学者・川本幸民の出身地であることにちなみ、毎年実施されています。検定では、ビールの歴史や製造方法に関する知識に加え、三田の歴史や文化なども出題。ビールへの理解を深めながら、地域の魅力にもふれられるのが特徴です。
セミナーの最初に登壇したのは、株式会社ハブの代表取締役社長であり本学の卒業生でもある太田剛氏。全国に110店舗を構える英国風パブ「HUB」の創業から現在に至るまでの歩みと、その背景にあった創業者・中内㓛氏の想いを紹介しました。
1980年に神戸三宮で第一号店がオープンした「HUB」(※現在は閉店)は、「キャッシュオンデリバリー(注文ごとの支払い)」や立ち飲みスタイルなど、居酒屋が定番だった当時の日本では珍しいスタイルでスタートしました。「仕事の関係で定期的にイギリスを訪れていた中内は、年齢も職業も性別も異なるお客様同士が、それぞれの楽しみ方で思い思いに過ごしているパブ文化に感銘を受け、日本にも広めたいと『HUB』の開業を決意しました」と、太田氏。お酒を「明日への活力につながるコミュニケーションの潤滑油」として捉え、誰もが入りやすく、短い時間でも会話や交流を楽しめる空間をめざしたといいます。
一方で、日本にはなかなかその雰囲気が受け入れられず、苦戦した時期もあったそう。しかし、2006年には上場し、現在では多くの人に親しまれる店舗となりました。太田氏は「苦しいときでも『HUB』の名前を残すことができたのは、中内の熱い想いがあったから。今後も創業時の中内の想いをしっかり受け継いでいきたい」と力強く話し、最後に次のような一言で締めくくりました。
「店名の『HUB』(=ハブ)は、車輪の中心を指す言葉です。そこから転じて“人が集まる場所”という意味を込めて中内が名付けました。この大学がミッションに掲げる『創発』も、人が集まることで生まれると思います。まさに、大阪経済大学がハブのような場所となることを願っています」
続いて登壇したのは、キリンビール神戸工場のクラフトアンバサダーのみなさんです。キリンビールでは、クラフトビールの魅力を社内外に広める牽引役として、クラフトアンバサダー制度を設けています。今回は4名の方々が、クラフトビールの多様性と、その味わいを言語化するおもしろさについて語られました。
クラフトビールには150種以上のスタイルがあるとされ、原料や製法、発酵方法によって多彩な個性が生まれます。その代表的なスタイルとして紹介されたのが、「ラガー」タイプと「エール」タイプです。例えば、低温でじっくり発酵させるラガーはすっきりとした味わいになりやすく、比較的高い温度で発酵させるエールは、華やかで豊かな香りが特徴だそう。今回のセミナーでは、クラフトビールを味わう際に「苦い」「飲みやすい」といった言葉だけで終わらせず、自分が感じた印象を自由に表現してみることが提案されました。
「例えば『バナナのような甘い香り』『柑橘系の爽やかさ』『燻製を思わせる香ばしさ』など、身近なものにたとえることで、味わいをより具体的に伝えられるようになります。同じビールを飲んでも、感じ方は人によって異なります。その違いを楽しみながら、どこでそう感じたのかを語り合うことが、ビールをより深く知るきっかけになると考えています」
さらに、料理とのペアリングについても紹介されました。「ビールと料理の色や産地、味わいの方向性を合わせる方法のほか、あえて異なる味を組み合わせることで、新しいおいしさに出会えることもあります」という話に、会場からは感嘆の声があがりました。正解を探すのではなく、自分なりの組み合わせを試し、周囲と共有することが、ペアリングの醍醐味といえるでしょう。
第3部に登壇したのは小西酒造株式会社でクラフトビールの製造・開発を務める田中悠也氏です。1550年創業の小西酒造は、長年にわたり清酒「白雪」を醸造してきた老舗の酒蔵です。1988年に伊丹市とベルギー・ハッセルト市が姉妹都市となったことをきっかけにベルギービールの輸入を開始。その後、酒税法改正を受けて1996年にビール醸造を始め、現在は「ITAMI BEER」ブランドを展開しています。
「私たちが大切にしているのは、酒蔵としての個性を活かしたビールづくりです。清酒酵母を使用するなど、伝統を土台にしながら、新しい味わいに挑戦しています」と話す田中氏。このような挑戦心から誕生したのが、2026年春に発売したばかりの「ITAMI BEER スパイス」です。
「日本の過酷な夏に贈る暑気払いの『食中酒』をコンセプトに開発しました。さまざまなスパイスを調整しながら試作を重ねた結果、最終的にたどりついたのはレモングラスとカルダモンを採用することでした。ピリッとした刺激と清涼感のある味わいに仕上がっています」
さらに田中氏は、クラフトビールを楽しむうえでは味や香りだけでなく「作り手のストーリーを知ること」も大切だと話しました。
「どのような思いで生まれ、どのような試作を経て形になったのか。背景を知ることで、一杯のビールはより特別な体験へと変わります。また、飲み手から寄せられる率直な感想も、次のものづくりにつながる重要な要素です」
アメリカではクラフトビールの定義が明確に定まっている一方で、日本では法的・公的な定義は存在しません。田中氏はこれを「日本人のおおらかさを表しているようだ」と言いつつも「個人的には、クラフトビールは作り手と飲み手のコミュニケーションによって育まれていく文化だと考えています」と力説しました。
第4部は、三田市まちのブランド観光課の方々と上宮ゼミ4年生らによる三田ビール検定の紹介が行われました。
三田ビール検定は、ビール文化や三田の歴史文化をテーマに出題され、上宮ゼミでは、本検定に挑戦する取り組みを2024年から行っています。講演では、ゼミ4年生らが検定の概要を説明したほか、練習問題も出題。さらに、三田市まちのブランド観光課の方とのトークセッションも行われました。
三田市まちのブランド観光課の方から「どのように勉強しましたか」と問われたゼミ生の一人・矢田さんは「公式テキストも参考にしましたが、実際に三田市へ足を運ぶことで、地域の歴史をより身近に感じながら学べたと思っています。そのほか、図書館で昔の文書を読むなど、ビールにまつわる知識を三田市の歴史と結びつけて深めていきました」と回答しました。
これまでも、川本幸民や日本のビール史をテーマに調査を重ね、地域の人物や産業、文化を学ぶ活動を行ってきた上宮ゼミ。まさに、三田ビール検定は、教室で得た知識を社会と結びつける実践の場にもなっているようです。
後半にはクラフトビールの試飲会を開催。小西酒造の「SNOW BLANCHE」と「ITAMI BEER スパイス」に加え、キリンビールからは、業務提携を結ぶヤッホーブルーイングの「銀河高原ビール」「よなよなエール」「インドの青鬼」が紹介されました。参加者はそれぞれのビールを飲み比べながら、講義で学んだ「香りを確かめる」「見た目に注目する」「感じたことを言葉にする」といった視点を活かしながら、ビールの多様性を体感しました。
ビールの歴史や製法、地域とのつながり、作り手の思いにふれながら、一杯のビールをより豊かに楽しむ方法を学んだ本セミナー。ビールを介して生まれた交流や発見が、参加者それぞれの新たな関心や行動につながることが期待されます。