情報社会学部・秦正樹准教授と東京大学社会科学研究所の井関竜也助教による共同研究の成果が、政治学分野の国際査読誌「Political Research Quarterly」に掲載されました。論文では、国際機関や外国政府による政策への支持表明が国内世論にどのような影響を与えるのかを、福島第一原子力発電所事故後のALPS処理水の海洋放出を事例として分析しています。
近年、気候変動や感染症対策、安全保障など、国境を越える課題への対応が求められるなか、各国政府の政策は国際社会から評価や批判を受ける機会が増えています。こうした国際機関や外国政府の反応は国内メディアでも大きく報道され、有権者の判断材料となります。しかし、人々はこうした国際社会からの評価をどのように受け止めて自らの政策評価につなげているのでしょうか。とりわけ、自らの政治的立場と異なる評価であっても、国際機関や外国政府の支持によって意見を変えるのでしょうか。
この問いに答えるため、本論文では2024年に全国の日本の有権者を対象とした世論調査上でサーベイ実験(※)を実施しました。回答者をランダムに複数のグループへ割り当て、一部のグループには「国際原子力機関(IAEA)」「アメリカ政府」「韓国政府」が処理水放出の安全性を支持しているという情報を呈示しました。その後、ALPS処理水の放出を支持する程度を尋ねることで、国際社会からの支持表明が世論に与える因果効果を検証しました。
※サーベイ実験:アンケート調査(サーベイ)の中に実験的な要素を組み込み、回答者をランダムにグループ分けして反応の違いを比較する研究手法。
分析の結果、国際原子力機関(IAEA)による支持表明は、日本国内における処理水放出への支持を有意に高めることが明らかになりました。さらに注目すべきことに、もともと原子力政策に慎重な傾向を持つリベラル/左派層において、国際原子力機関(IAEA)やアメリカ政府による支持表明が政策支持を押し上げる効果が確認されました。これは、人々が自らの政治的立場に合う情報だけを受け入れるという「動機づけられた推論(motivated reasoning)」よりも、国際協調や多国間協力を重視する価値観が世論形成に影響している可能性を示唆しています。このように、国際社会からの支持表明が世論を説得し、政府の政策実施を後押しする一方、政府が国際機関のお墨付きを利用して国内の批判を免れる可能性がある点も指摘されています。
本研究は、国際政治学と政治心理学を結び付けながら、国際社会と国内世論の関係を実証的に分析したものです。グローバル化が進む現代社会において、国際機関や外国政府が国内政治にどのような影響を及ぼしているのかを理解する上で重要な知見を提供しています。
発表論文
Hata Masaki, & Iseki Tatsuya. (2026). Motivated Reasoning or Cooperative Internationalism? Ideology and Public Responses to International Endorsements. Political Research Quarterly, 1-13. https://doi.org/10.1177/10659129261453951