2026.06.19
研究・産官学連携
戦後81年、「非核三原則」は何を守ってきたのか 友次晋介教授(国際関係史)が語る、その歴史的背景と国際的意義
社会で注目される“世の中ゴト”を、本学教員の専門知から読み解くシリーズ「世の中ゴトニュースレター」

長引くウクライナ戦争や中東情勢の悪化、ホルムズ海峡の緊迫化など、国際情勢や安全保障をめぐる変化に漠然とした不安や緊張感を抱く人も少なくありません。
日本を取り巻く安全保障環境は大きく変わっています。戦後81年を迎える今年、英国の研究者がAIによる核戦争シミュレーションを発表しました。日本では「持たず、作らず、持ち込ませず」を掲げる非核三原則の見直し論が、一部の政治家から提起され、議論を呼びました。
国際関係史が専門で、広島大学平和センターの客員研究員も務める友次晋介教授が、「非核三原則」の歴史的背景と国際的意義について解説します。友次教授は、日本がどのように核拡散防止に取り組んできたかを研究しています。 

日本の国是「非核三原則」。「持ち込ませず」についての様々な議論

「非核三原則」は、1967年に佐藤栄作首相によって表明され、1976年の核兵器不拡散条約(NPT)※1)採決後の決議で日本の「国是」である旨が明言されました※2)。また、佐藤首相は1968年に「核の四本柱」、1)非核三原則の堅持、2)核軍縮・不拡散の推進、3)国際社会における核兵器削減や拡散防止への協力・努力、4)米国の核抑止力への依存(核の傘)を表明しています。「核の四本柱」で表明されたとおり、日本の「非核三原則」は単体の理念ではなく、「拡大抑止」という前提に支えられてきました。

核兵器不拡散条約よりも厳しい自己規制である「非核三原則」。見直しは日本のソフトパワーに影響も

冷戦期は、「核の四本柱」と“広義の”日米「密約」※3)により、一時寄港した米軍艦船が核搭載艦船かどうか、あえて曖昧にすることで「非核三原則」と核抑止の両立は維持されていました。これについて、2010年の有識者による調査委員会は、「冷戦期とはいえ、長い年月、国民に対して不正直な説明が続けられていたことは問題だった」と述べています。 
NPT体制の中で、日本は、体制の維持・強化、核軍縮、核不拡散の推進において国際的に評価されています。また、NPT2条には、非核兵器国が「核兵器その他の核爆発装置又はその管理をいかなる者からも直接又は間接に受領しないこと」とあり、核搭載船が寄港にとどまる限り核兵器の管轄権は米国にあり、直ちにはNPT違反とは言えません。つまり寄港も制限する「非核三原則」は、NPTよりも厳しい自己規制と言えます。
友次教授は「持ち込ませず」を見直すことは、核軍縮に地道に取り組んできた日本が持つソフトパワー(軍事力に頼らず他国を味方につける国家の魅力)に影響が出る可能性があると考えています。核抑止や外交の有効性は、その運用の細部をあえて公論化しないことによって支えられてきた側面があります。これを踏まえ、「持ち込ませず」の見直しを公論化することには慎重な検討が必要です。

「非核三原則」と核の傘は本当に矛盾するのか

核の傘と非核が「同時成立できない」という意見もあります。しかし、「核の傘があるから日本として非核でいられた」点も無視できません。核の傘が、非核三原則を現実的に成立させ、そして非核三原則を堅持するという姿勢が、究極的な核廃絶に向けた日本の段階的な努力の国際的正当性、信頼を支えた側面もあるのです。

核政策に関わる人は、核の悲惨さに触れるべき。有権者は核や国際情勢の変化を自分事に

友次教授は、「非核三原則」だけでなく、核政策に携わる人は、広島と長崎の被爆の実相に触れるべきだと考えています。近年ではロシアを中心に、「核の恫喝」とも形容される、実際の核兵器の使用をほのめかす言説が見られるようになりました。そのため、小型核・戦術核の使用のハードルが下がりつつあるのではないかとの懸念も、必ずしも根拠のないものとは言えません。しかし、実際に核兵器を使用した場合、どれくらいの威力でどんなことが起きるかは共有されていません。政策に携わる政治家は、国民の信託を受けて選ばれます。国民一人一人が他人事にせず、原爆投下の悲惨さや歴史、国際情勢の変化を理解し、自分事として日本の安全保障を取り巻く環境を注視して欲しいと、友次教授は考えています。

参考データ

※1) 核兵器不拡散条約(NPT)の概要 外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku/npt/gaiyo.html

※2) (参考)非核三原則に関する国会決議 外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku/gensoku/ketsugi.html

※3) いわゆる「密約」問題に関する有識者委員会報告書(概要) 
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/mitsuyaku/pdfs/hokoku_yushiki_g.pdf

大阪経済大学 国際共創学部 国際共創学科 教授 友次 晋介(ともつぐ しんすけ)プロフィール

https://webj8.osaka-ue.ac.jp/ouehp/KgApp?resId=S001494
1972年生まれ、大阪府出身。2002年ジョージワシントン大学 エリオット国際関係大学院 修士課程修了、M.A.(International Affairs)。 2010年名古屋大学大学院環境学研究科修了、博士(法学)。2008年ジョージワシントン大学シグールアジア研究センター客員研究員(フルブライト奨学生)、2009~2011年(独)科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)アソシエイトフェロー、2011~2014年名古屋短期大学英語コミュニケーション学科助教、2014年4月~2024年3月広島大学平和科学研究センター(平和センター)准教授、同副センター長(2023年度)、2014年7月~2020年3月広島大学大学院国際協力研究科准教授、2020年4月~2024年3月大学院人間社会科学研究科准教授(大学院の全面改組による)等を経て、2024年4月から大阪経済大学国際共創学部准教授、2025年4月から現職(教授)。また、2024年4月~広島大学平和センター客員研究員。
専門は、国際関係史、原子力技術など戦後の科学外交、科学技術(特に原子力)、核兵器不拡散に関する研究。

【著書・論文】
・友次晋介(2009).1970年代の米国核不拡散政策と核燃料サイクル政策――東アジア多国間再処理構想と東海村施設を巡る外交交渉からの考察.『人間環境学研究』,7(2),107–127.
・友次晋介(2017).「恐怖の均衡」制度化の試み――SALT IからSALT IIまで.山本武彦・庄司真理子(編)『軍縮・軍備管理』(33–57頁).東京:志學社.
・Tomotsugu, S. (2018). After the hegemony of the “Atoms for Peace” program: Multilateral nonproliferation policy under the Nixon and Ford administrations. In J. Baylis & Y. Iwama (Eds.), Joining the Non-Proliferation Treaty: Deterrence, Non-Proliferation and the American Alliance (pp. 34–53). London, England: Routledge.
・Tomotsugu, S. (2020). The Bandung Conference and the origins of Japan’s Atoms for Peace aid program for Asian countries. In J. Ikenberry & M. D. Gordin (Eds.), The Age of Hiroshima (pp. 109–128). Princeton, NJ: Princeton University Press.
・Tomotsugu, S. (2023). Science of the twilight empire: British atomic diplomacy in the era of decolonization. Asia-Pacific Review, 30(1), 80–122. doi:10.1080/13439006.2023.2206741
・日本軍縮学会(編)(2025).『軍縮問題入門』(第5版).東京:紀伊國屋書店.

【所属学会】 
・日本政治学会、国際安全保障学会、日本国際政治学会、日本西洋史学会

【所属団体・委員】 
・国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 将来の原子力技術に関わる社会環境整備検討委員会委員(2019年8月~2026年3月)

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