2026.09.25
学部・大学院
非日常を日常に。オープンキャンパスにて高齢者と学生の協働する「みんなでCafe」実施

2026年8月9日(日)に開催されたオープンキャンパスにて、プログラムの一環として人間科学部 社会ライフデザインコースの大橋純子ゼミによる「みんなでCafe」をD館2階のカフェスペースで実施しました。

この企画は、認知症の人とともに働く『注文を間違える料理店(※)』にヒントを得て、大橋ゼミの学生が一昨年度から取り組んでいる交流イベントです。地域の介護施設を利用する高齢者と学生が一緒にカフェを運営し、共生社会の実現に何が必要かを体現的に学ぶことを目的としています。

当日は、大橋教授の指導のもとで昨年度のノウハウを蓄積した学生が主導し、2~3年生計12人の学生が運営を担いました。

※注文をまちがえる料理店:注文をとるホールスタッフが全員認知症の人という、期間限定のレストラン。「まちがえちゃったけど、まあいいか」をコンセプトに、間違えることを受け入れて、一緒に楽しむという新しい価値観を発している。 2017年6月にスタートし、全国各地で実施。

昨年度の反省を活かし、運営体制を改善

開店前には事前ミーティングを実施。運営学生の友人がデザインしたロゴ入りエプロンを高齢者の皆さんにも着用していただき、注意事項を全員で確認しました。

学生たちは企画段階から大学施設管理担当者やHUBCAFEを運営する経大サービスと綿密な打ち合わせを重ねるとともに、自ら開拓した介護施設事業者とも連携し、当日の案内や運営準備を進めてきました。

今回の運営メンバーのうち、昨年度の経験者は3年生3人と2年生2人。前回の反省を踏まえ、調理工程が少なく待ち時間やオペレーションの煩雑さを短縮できるパンやデザートを中心としたメニュー構成を企画しました。

この提案を受け、経大サービスはHUBCAFEで通常提供していないシンプルなクロワッサンやおにぎりセットなどを新たに開発。当日の会計スタッフも派遣するなど、全面的に協力しました。

メニューとともに、「みんなでCafe」のコンセプトや注意事項、アンケートリンクなどが記載されたプリントを全座席に配置することで、待ち時間に改めて目を通してもらえるよう工夫した
「一人の人として尊重する」学びを実践

企画にあたり、カフェ運営にかかわる認知症当事者の人からは「認知症では記憶は薄れても感情は残るため、失敗しない環境を作ってほしい」との助言を受けました。

そこから学生たちは、施設管理担当者や経大サービス、介護施設の担当者と話し合いながら企画を組み立てていったといいます。コーチングの資格を持つ大橋教授は、必要に応じて助言しながらも、運営の中心は学生たちだったと振り返ります。

学生たちは担当する高齢者に付き添い、注文から商品提供までをサポートしました。単に業務を支援するだけでなく、「喜んでもらえましたね」と声をかけたり、ご家族が来場された際には交流を促したりするなど、その場の楽しさを言葉にして伝える姿が印象的でした。

一人ひとりの「できた」を見つける声かけ

注文を取るのに時間がかかり、「おばあちゃんだから」と申し訳なさそうに話す人には、「上手にできていましたよ」「また次も注文を取りに来ましょうね」と前向きな言葉をかけました。

また、「字がきれいですね」「きれいに並べてくれましたね」など、一人ひとりの良いところに目を向けて伝える姿も見られました。学生たちの関わり方からは、普段は高齢者と接する機会が多くないとは思えないほどの自然な温かさが感じられました。

学生に話を聞くと、視野が狭くなりやすい高齢者への声かけの方法は、当日付き添っていた施設職員の対応を参考にしながら、大橋教授から学んだ「一人の個人として尊重する」という考え方を自分なりに実践したものだといいます。一方で、事前に理解していたつもりでも、実際に関わるまで気付かなかったことも多くあったと振り返りました。

左:水はセルフサービス。ピーク時には67席がほぼすべて埋まった/右:売り切れたものは説明する必要がないようあらかじめ書き込んだ
現場で得た気付きと学生たちの成長

学生たちは、混雑時のオペレーションにも柔軟に対応しました。商品配置にも工夫を凝らし、提供スピードを重視した運営を行いました。

商品が予想以上の早さで売り切れた際には、一時的に注文が混乱する場面もありましたが、メニュー表を書き換えて素早く共有するなど、臨機応変に対応しました。

また、席を奥から順に案内すると車いすや歩行補助車がすれ違いにくくなることにも、実際に運営して初めて気付いたといいます。

十分な環境整備を行ったうえで現場で学び、その場の状況に応じて改善を重ねる。そこには、「高齢者」ではなく「一人の人」として向き合い、「○○が得意な○○さん」「○○が苦手な○○さん」と捉える姿勢がありました。

左:注文を受けてすぐ出せる作り置きのメニュー/右:交流を楽しむ工夫が随所に
高齢者にとっての「非日常」と社会参加の機会

昨年度はHUBCAFE(B館2階)を会場に実施した「みんなでCafe」。キッズスマイルフェスタでの開催とあって、園児との交流企画として駄菓子のつかみ取りやモルックの体験なども行いました。

介護施設の職員によると、幼い子どもとの交流と大学生との交流では、高齢者が受ける刺激の性質が異なるといいます。また、施設の外に出て役割を果たすという非日常の体験には、大きな意味があると話していました。

今回参加した高齢者は、認知症の人を含む9人。内訳は80代が1人、90代が8人で、最高齢は97歳でした。昨年度の開催時の様子を見た家族からも好評だったことから、今年度も参加への快諾を得られたそうです。

学生たちの思いが繋いだ地域連携

学生が共に働くことで「うまくいかなかった経験」自体を減らし、高齢者の感情を守る―失敗したと思わなくて済むのではないか。そんな問題意識から発展させた「みんなでCafe」。

企画当初は前例がなく、協力に慎重な施設もありました。しかし学生たちが「一緒に場をつくりませんか」と働きかけたことで、理解を得ることができたのだそうです。

初年度は地域との連携を強めたいとの想いで地域包括支援センターにも協力を呼びかけましたが、人員不足などから継続的な支援を得ることが難しかったといいます。それでも学生たちは地域の介護施設を自ら調べて訪問し、企画への思いを伝えることで協力先を開拓してきました。

当日顔を合わせてから3時間、共に働く中で生まれた連帯感。全員で楽しんだ様子がハイタッチからも伺える

今後は秋の学園祭でも出店を予定しています。

大橋ゼミの学生たちは、「みんなでCafe」の活動を継続しながら、現場で培った観察力や対応力をさらに高めていきたいと意欲を語りました。今後もそれぞれの気付きや工夫を振り返り、次の企画運営につなげながら実践的な学びを深めていく予定です。

学生の声

【代表】人間科学部2年:阪上真吾さん

前回HUBCAFEで実施した際には、温かいメニューを提供したためお客様をかなりお待たせしてしまいました。また、ピーク時に車いすが行き交うだけの十分なスペースも確保できていなかったなどの反省点を活かして、今回は広めにスペースを確保し、交流のための余裕をもたせるために混雑緩和を重視しました。具体的には経大サービスの方と相談して、提供や説明が簡単になるように、シンプルなデザートメニューを増やすなど、運営しやすいメニュー構成を考えました。

教員の声

認知症の人の社会参加を拒む背景には、スティグマ(偏見)があります。スティグマには、社会的な固定観念として内面化されやすい「パブリックスティグマ」、自信を失って自ら閉じこもってしまう「セルフスティグマ」、そして家族や施設関係者の無意識の懸念による「連合的スティグマ」があります。これらが相互に影響し合い、認知症の人に社会での役割を与えない、社会に参加する機会がないから能力が見えない、さらに能力がないとの思いを強めるという悪循環を作っています。スティグマを生まないためには、ミスを許容しつつもそれを未然に防ぐ仕組みを整え、認知症の人が社会で役割を担う機会を積み重ねていくことが重要です。

ゼミ生の多くは1年次に「現代家族論」を履修しています。授業ではVRによる認知症体験や、フランス発祥のケア技法「ユマニチュード(※)」についても学びます。ただし、接し方の技術は知識として覚えるだけでは意味がありません。学生たちの言葉が相手に届くのは、目の前の一人ひとりに向き合い、その場で自分の中から生まれた言葉を伝えているからだと思います。

※ユマニチュード:フランスで開発された「人間らしさを取り戻す」ことを目的とした革新的な認知症ケア・コミュニケーション技法。目線の揃え方やふれ方、声掛けの仕方など2つ以上を同時に行う。

初年度は施設側にも不安がありましたが、学生たちは「守るために社会から隔離するのではなく、社会の目を変えていきたい」という思いを真剣に伝えました。その姿勢が施設の共感を呼び、協力につながりました。参加者には報酬もお渡ししています。自分で飲み物を買うなどの選択ができ、楽しそうに働かれている姿を見てご家族にも喜んでいただくなど、とても良い循環が生まれています。高齢者の閉じこもりが起こる背景には、偏見に起因する心理的な問題が6割程度を占めているといわれています。自尊感情を保てる形に環境を整え、社会参加を促進していくことで、社会全体の意識も変わっていくのではないかと考えています。

関連記事:大橋純子ゼミ 認知症の人と学生が共に働くイベント「みんなでCafe」開催 ~認知症の人が福祉や非日常ではなく、日常に参加できる社会を目指して~(2025年1月29日発信)

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