2025年9月13日(土)、第8回ワインセミナー「ワインはなぜわかりにくいのか──続・ワイン神話の解剖学」が開催されました。講師を務めたのは、本学経済学部の鈴木隆芳教授です。セミナーは、講演と試飲講座の二本立てで構成され、本学ならではのイベントとして毎年多くの参加者を集めています。講演の部では今年度は対面・オンラインを合わせて、計128名の参加でした。

はじめに、鈴木教授からこの1年間の活動報告がなされました。白水社『ふらんす』への寄稿や、日本ブドウ・ワイン学会での発表など、鈴木教授の活動は多岐にわたります。
また、8月30日~9月10日に実施された「海外実習(フランス)」についても言及。鈴木教授は引率教員として学生たちとフランスに滞在していましたが、滞在中に現地で抗議デモの恐れがあり、「もしかしたら帰ってこられず、ここにはいなかったかもしれない」と、無事にセミナーを開催できた安堵を語っていました。
講演は三部構成で、第一部は「ワイン界のセカイセン」と題した入門編。ワイン界の経済的・社会的特徴の解説や、ワイン愛好家の行動様式の社会学的分析が主な内容です。
解説の中では、『ドンペリ(ニヨン)』や『ボジョレー・ヌーヴォー』といった聞きなじみのある銘柄が取り上げられ、参加者はスムーズにワインについての理解を深めることができている様子でした。
第一部の中で、社会に受容されているワインの「社交性・非代替性・物語性」についてのお話がありました。説明を締めくくるにあたって、ちょうどその反対の事例に「独りで風呂上がりにビールを飲む」という行為を挙げた鈴木教授。そのユニークでわかりやすい表現に、思わず笑みがこぼれる参加者もいました。

第二部では、「海外実習(フランス)」に参加した9名の学生による実施報告が行われました。現地では、工場見学や実習先の学生たちとのプレゼンを通じて、グローバルな観点から経済を学ぶことができたようです。
学生たちは、その学びを英語やフランス語で発表。原稿を見ることなく、慣れない外国語で懸命にプレゼンに取り組んだ学生たちに、会場からは大きな拍手が贈られました。

本編である第三部は、鈴木教授の現在の研究テーマである「本当は美味しいはずなのに、ワイン界では歓迎されることのない風味」についての考察です。その風味とは一体何なのか、そして、ワイン界でその風味が歓迎されないのは何故なのかが、鈴木教授の解説によって順に解明されていきます。まるでサスペンス・ドラマのような展開に、参加者も引き込まれていました。
鈴木教授の研究によると、その風味の正体として導き出されるのは「樽香」。バニラのような甘美な風味で、多くの人が美味しいと感じる「樽香」ですが、実はその風味をあとから人工的に賄う技術が存在します。
つまり「樽香」は、“早い旨い安い”の体現です。しかしそれは、特別な生産地(テロワール)・生産年(ヴィンテージ)・生産者(ヴィニュロン)といったワイン界で重んじられている価値に抵触します。そのため「あからさまに美味しいとは言えない風味」として、ワイン界では扱われてしまうのだといいます。
この鈴木教授の研究から、グローバルな価値とワイン界における価値には大きな違いがあることが示され、参加者たちも非常に興味深く聞き入っていました。
しかしながら “美味しいものは美味しいと言いたい!”という本音を抱いてしまうのもまた事実。最後に「樽香」の奔放さをウリにするワインの銘柄が紹介され、講演は締めくくられました。

講演の後は、毎年大好評の試飲講座が行われました。今年度も、銘柄を隠した状態で価格を予想する「ブラインド・テイスティング」形式で実施され、参加者たちは大きく価格に差がある赤ワイン4種を飲み比べました。用意されたワインの最高価格は1万円強、最低価格は700円程度です。
今回、見事最高価格のワインを選んだ参加者は、55名中18名。会場は大いに盛り上がり、「次こそ当てたい!」と早くも来年度の開催を願う声が聞かれました。

毎年、鈴木ゼミの学生たちが、当日誘導、アンケート調査、試飲講座の準備などを担当しています。また在校生だけでなく、鈴木ゼミのOG・OBも全国各地からスタッフとして駆けつけました。鈴木教授は「本学職員はもちろんのこと、学生や卒業生など、みなさんの協力のおかげで今年も無事に開催することができた。ご協力に感謝している。ぜひ来年度も開催できればと思う」と話します。
本学は、“つながる力”をキーフレーズとして掲げています。その言葉通り、多くの人のつながりによって今年度も無事にワインセミナーを開催することができました。
ワインセミナーは、来年度も開催予定です。みなさまのご参加をお待ちしています。