2025年1月20日、起業家の上原仁氏と渋谷順氏を講師にお迎えし、スタートアップシンポジウム「社会課題と向き合う起業家の道」を開催しました。経営学部主催、大経大アントレプレナーシップ(ENT)塾(※)共催による、スタートアップ関連のシンポジウムは今回で3回目。対面とオンラインで合計約150名が参加しました。開会の挨拶で、経営学部長であり、大経大アントレプレナーシップ塾長も務める江島由裕教授は「チャンスを見つけて果敢に挑戦する。そういうマインドを社会に根づかせていきたい」と話しました。
※大経大ENT塾:起業家精神を養い実践する課外活動で、単なる起業ノウハウではなく、事業創造の理解と実践を通じて学生の主体的成長を促す。起業家や経営者が講師として参画し、大樟春秋会(大阪経済大学 同窓会組織)の支援のもと運営。

株式会社マイネット創業者である上原氏は「今、日本は非常に起業しやすい環境が整っています」と話しはじめました。創業時には日本政策金融公庫から無担保・無保証で資金を借りることができます。また、銀行からの融資を返済できなくなったとしても、全国銀行協会の支援により自己破産などせずに可能な範囲で返済すればよい仕組みになっています。他国に比べて日本は起業家が少なく、その解決策としてこれらの制度が生まれたと上原氏は説明します。
「もちろん、これらを悪用してはいけませんが、失敗しても大丈夫な国になっているのです。やりたいことが見つかったり、社会に価値を出せることができたら挑戦してもリスクはないと覚えておいてほしい。そして、もし起業するならこんな心得を持っておくとよいと思います」と、“上原仁流起業の心得”を紹介しました。

<上原仁流の起業の心得>
1. やる前に 仮説を検証せよ
2. お金よりも 信用資産を積む
3. 最重要 選択と集中
4. 成功するには 敢えてずらす
5. 結局は 好きで得意なことをやれ
心得1は、起業で予定した収入が得られるかどうか、事前に検証しておくことが大切とのこと。心得2について、上原氏は「まずは応援してくれる人の輪を築くこと」と話しました。たとえば、起業志望者6人を集めて毎週飲み会を開く。そうすると、参加した人は6人分の知恵や価値を持って帰れることになり、主催者に感謝の気持ちを抱く。それが信用資産となり、信用資産を貯めることで応援してくれる人が増え、ロケットスタートで起業できるというのです。実際に上原氏は、毎月80人規模の勉強会を開き、創業時(1度目)の出資者や仕事などを得たといいます。
心得3では初めは全員が弱者であり、弱者が勝つには「これしかやらない」というものを選んで集中することが重要と解説。しかし、その領域については「敢えてずらすべし」と心得4で説明しました。みんながよいと思うことは過当競争になるためです。心得5では、会社を駆動する源泉は情熱なので、好きで得意なことをするのが成功への近道と話しました。
最後に、大切なことなので伝えておきたいと、「起業を難しく考えることはない」とメッセージを参加者たちに贈りました。「何となく起業は人生1度きりという風潮がありますが、人生をかけて行うものと考えると起業しにくい。もし失敗しても、その後をちゃんと整理すればよいのです。2周目3周目のチャレンジができる環境が整っています。ぜひ“起業は人生2度3度”という感覚でやってください。そのくらいの方が世の中に対して新しい価値を出せますし、間違いなく起業家としてのあなたの人生が豊かなものになっていきます」
株式会社スマートバリュー代表の渋谷順氏は、1928年創業の町工場を30歳のときに受け継ぎ、事業継承とスタートアップを同時に推進。当時倒産寸前だった会社を東証一部上場企業にまで育てました。現在、自治体向けITサービスを行うデジタルガバメント、自動車のIoTサービスなどのモビリティ・サービス、プロバスケットボールチーム神戸ストークスやGLION(ジーライオン)ARENA KOBEを運営するスマートバリューという3つの事業を展開しています。
3つの事業を行う理由について「社会課題は山のようにある」と渋谷氏は話しました。「大企業は社会課題に対してなかなか向き合えません。ここにこそスタートアップが輝く土壌があります。収益を上げるという経済的価値と、課題解決というソーシャルインパクトのある社会的価値。その両面を得ることができるのです。私自身は、この3つの事業は社会の仕組みづくりや街づくりにつながる事業であり、自分たちのミッションと捉えています」

渋谷氏は、自由度の高いスタートアップや小さな会社だからできた例として、神戸市湾岸部での神戸アリーナプロジェクトを紹介しました。「立地はよいのに誰も投資してこなかったエリアですが、そこに着目して取り組めたのも、社員約300名の小さな会社だったからです」とのこと。プロジェクトの中核施設は2025年4月に開業するGLION ARENA KOBE。関西最大級の多目的アリーナであり、プロスポーツの試合、国内外のアーティストの音楽ライブ、企業のイベント、学校の入学式などで、すでに稼働率は90%を超えているといいます。
GLION ARENA KOBEの特徴は民設民営であること。だからこそ、関西で待望されていた大型興行施設やスマートシティの推進、企業やスタートアップとの連携など、さまざまな取り組みを実現することができたと語りました。アリーナを含めたエリア全体では100%再生可能エネルギーを使用するなど、先進的な試みも行います。
その他、渋谷氏は、神戸市やJR西日本などとともに、データやIoTを活用して社会課題の解決を目指す神戸スマートシティモデルにも携わっています。「『スタートアップは社会を変えられない』という考えは間違いです。スタートアップが結集すれば行政や社会を動かせます」と渋谷氏は熱く語りました。
「最近、政府は新しい公や新しい資本主義という言葉をよく使います。民間も一緒になって社会をつくろうといってくれているのです。こうした大きな変化に対してチャレンジできるのは、スタートアップや若い世代の皆さん。今ちょうどそのタイミングにいます」と応援の気持ちを込めて話しました。
第二部では、経営学部の水野未宙也講師がコーディネーターを務め、ディスカッションを行いました。水野講師からは「お二人の話を聞くと、起業家を増やしたいとの思いを感じます。それはなぜですか」との問いかけがありました。

渋谷氏は「この30年の日本経済の落ち込みは既存の社会の仕組みや既得権益にあると思います。そんな社会を変えたかった。それにはアントレプレナーシップの考え方があっていると思いました」といいます。上原氏は「常識にとらわれず、よりよい世界をつくりだすのが起業家。失敗もひとつの社会実験であり仮説になります。次々とバトンをつなぐことで、世の中の理不尽を減らせるはず」と話しました。一方で、社会課題を解決したり、成長しなければ…という考え方が「押しつけ」になるのではないかと上原氏。「全員が“社会のため”と考えなくてもよいと思います。自分の人生が面白くなるように、人生というゲームに勝てるようにという考えでもよいのでは。それが結果的に社会に貢献することにもなります」
起業家お二人のリアルな話に、質疑応答では会場やオンライン参加者からいくつもの質問が飛び交いました。就職活動中の学生からは「人生を決めるコツは?」との質問があり、渋谷氏は「変化する方、ストーリーがある方を選ぶよう心がけています」とのこと。変化によって移り変わる景色を見て得られる気づきがあり、ストーリーに納得することで「やりたい!」との気持ちが起こると話しました。上原氏の答えは「人に話す」でした。相手の肯定否定は気にせず、自分の話に腹落ちするかどうかを見るとのこと。「今の時代、皆さんはChatGPTに話してみるのもよいでしょう」とアドバイスしました。
最後に、水野講師は「よりよい世界をつくるスタートアップは、決して難しいものではない。自分とは全然違う世界の話ではないと認識を新たにすることができたと思います」と締めくくりました。参加した方々も、自分にも起業の可能性があると感じたのではないでしょうか。
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スタートアップシンポジウム「社会課題の解決に向き合うスタートアップ」(2024年3月14日掲載)