2026.10.07
イベント・講演会
第9回ワインセミナー「ワイン神話の解剖学#2 憧れのセンパイ♡」を開催

2026年9月12日(土)、第9回ワインセミナー「ワイン神話の解剖学#2 憧れのセンパイ♡」が開催されました。講師を務めたのは経済学部の鈴木隆芳教授です。セミナーは講演と試飲講座の二部構成で行われ、毎年多くの参加者を集める本学の人気企画となっています。今年度は対面とオンラインを合わせて119人が講演会に参加しました。

冒頭では、この1年間の研究・社会活動について報告がありました。鈴木教授は、経済活動の背景にある言語や哲学と、日仏(日本・フランス)のワイン文化の関係について研究しています。日本ブドウ・ワイン学会での研究発表をはじめ、ワイナリーや大阪府立環境農林水産総合研究所への取材、日本フランス語フランス文学会での試飲語彙に関する研究発表、各地のワインセミナーへの登壇など幅広く活動。また、フランス語圏文化を紹介する白水社の月刊誌『ふらんす』への寄稿も行いました。

また8月30日(日)から9月10日(木)にかけて実施されたばかりの、京都大学・摂南大学との合同海外研修についてもふれました。鈴木教授は毎年引率教員として学生とともにフランスを訪れており、実習ではブドウ栽培や酪農など地域産業に根差した体験学習を実施しています。講義はその成果として、フランス産業の今を参加者に伝えるものとなりました。

「おいしいワイン」を生み出す条件―「銘醸地=最適気候地」という常識への問い

講演は三部構成で行われました。第1部「ワイン界のちょっとフシギな格差」では、市場データをもとにワインの経済的・社会的特徴について解説。

まず、今年のフランスも記録的な暑さだったという海外研修での体験を振り返り、飲食店向けの空調設備需要が急増したという最近の事例を紹介しながら、気候と経済活動の関係にふれました。

その後は入門編として、フランスの市場データ分析から流通の歴史を概観。日仏を比較することで初心者にも分かりやすく説明しました。

鈴木教授はフランスワインの輸出量と輸出金額の比較データを示しながら、「銘醸地は本当にブドウ栽培に最適な地域なのか」という問いを投げ掛けました。現地での観測データを示しながら、フランスの農学校での研修では、気候変動への対応として湿度に強い新品種の開発が進められていることも紹介されたと明かします。

鈴木教授による講義スライドより抜粋

さらに、ボルドーやブルゴーニュ地方などの銘醸地産ワインに比べ、同等の生産量を誇る南仏ラングドック産のワインは低価格帯に位置付けられ、そのことが原因でしばしば生産者による暴動も起こっていると現地報道の様子を紹介。

鈴木教授は、この格差に疑問を投げ掛けた19世紀の歴史学者ロジェ・ディオンの著作を引用し「品質だけでは説明できないワイン市場の構造」に焦点を当てました。各地域の気候や地質条件については、17世紀の哲学者ジョン・ロックや18世紀の経済学者アダム・スミスの著作も参照しつつ、歴史的背景を紐解いていきます。

現在、国際ブドウ・ワイン機構(OIV※)の統計では、世界のブドウ畑面積とワイン生産量はともに微減傾向にある一方で、銘醸地からの輸出金額は以前の水準を保持しています。

このことから、人の手で工夫を重ねて独自の味わいを追求した産地では、生産可能な量が少なくても売り方(付加価値)にこだわって生産されてきたことが示されました。

※OIV:ブドウの品種や栽培といったワイン造りに関する研究機関で現在約46ヵ国が加盟。OIVが独自の品種と認めたワインだけが、EUへの輸出・販売をする際ラベルに表示できる

また、日本では「日本ワイン(国内産ブドウ使用)」と「国内製造ワイン(輸入濃縮果汁使用)」が法的に区別されるなど、ブドウの産地にこだわることでブランド価値を担保していることも併せて紹介されました。

南フランスの実体経済を学生が報告

日仏のデータ比較から市場戦略が明らかになったところで、第2部では、学生目線から見た生の生産現場について海外実習の成果が報告されました。参加学生9人は、一人ひとり順番にフランス語を交えた英語で発表を行いました。

豊富な記録画像を使用した資料からは、ブドウ栽培の工程や樽発酵の様子、AIやデジタル技術を活用した農業生産管理の現場を視察したほか、農場作業も体験するなど、伝統的なチーズの製法やワインづくりを通じて地域産業の現状を総合的に学んだ様子が伺えます。

学生発表資料より抜粋

その他、インスティテュ・アグロ・モンペリエ(農業高校)ではテイスティングやフードペアリングについても学び、現地の学生や他大学の参加者と共同でプレゼンテーションに取り組んだそうです。また経済紙や風刺新聞を題材に、日仏ジャーナリズムの在り方の違いについても考察を深めたとの報告もなされました。

ある学生は、農地で働く高齢者との交流をする上で、ゼミで学んだフランス人留学生とのコミュニケーションスキルが役立ったと振り返りました。他大学と合同での海外研修の中で、グローバルな視点から実体経済を考察する機会を得て、自身の成長を実感できたようです。学外の方々に向けて慣れない外国語で発表を行う懸命な姿に、会場からは温かい拍手が送られました。

海外研修に参加した学生たちの発表の様子
ワイン神話の読み解き方―人間の営みが生み出す付加価値を考慮する

第3部では、「偉大なワインはなぜ偉大になったのか」というテーマのもと、歴史学者ロジェ・ディオンの著作を先行研究として、さらに深く掘り下げていきました。

ディオンはボルドーなどの銘醸地に「テロワール」「唯一無二」「伝統」といった価値観が生まれた要因は、14世紀の百年戦争期、英国との関係によって政治的にも流通面にも優位な立場を築いたことが背景にあると考察しています。

鈴木教授は、フランス国内ではワインの価値を土地の恩恵として語る傾向が強い一方で、人々の努力や流通の歴史が見落とされがちであると指摘。「テロワール」や「ミネラル感」といった表現は商業的なキャッチコピーとして機能しており、土壌成分がワインの味に直接移行するかどうかの科学的な正確性とは区別されていると述べました。

その上で「自然条件の恩恵が繰り返し強調されることで、流通、権力、資本といった歴史的要因が見えにくくなる可能性がある」と、ワイン神話との距離の保ち方について言及しました。

立場によるアプローチ方法の違いと見え方の違いを波長に例えて解説した

講演の最後には、ワインの楽しみ方のひとつとしてギフトの選び方を伝授。「予算を抑えながらも気の利いたワインを贈るなら?」と、シチュエーション別のおすすめワインが紹介されました。

グローバルな活躍が期待される新人には、1976年のパリワインコンテストで名を上げたカリフォルニアのシャルドネ「シャトー・モンテレーナ」。還暦を迎える先輩には、「赤いチョッキ(gilet rouge)」の同音異義語を冠したボルドーワイン「シャトー・ジレ・ルージュ(Château Gillet Rouge)」など、ストーリー性を重視したユニークな選定を披露。

また、いつまでも反骨精神を失わない憧れの先輩に贈りたくなるワインとして、ラムネ工場のバックヤードで醸造されている「オープニング・アクト」が紹介されました。一からノウハウを学び、自社農園のブドウで世界への挑戦を続けている小さなワイナリーの作るワインです。

鈴木教授は、見学に訪れた栃木のワイナリーの挑戦と、人が手間をかけて栽培環境に抗ってきた歴史的背景とを重ね合わせつつ、講演を締めくくりました。

恒例のブラインド・テイスティングも実施

講演後には、毎年恒例となっているブラインド・テイスティング形式での試飲講座が開催されました。日本ソムリエ協会認定資格を持つ鈴木教授と卒業生の柴田氏が、初心者にも分かりやすくテイスティングの作法と分類シートの見方を説明。参加者は銘柄を伏せた状態で、価格帯の異なる4種類のシャルドネ(白)ワインを飲み比べました。

用意されたワインの価格は700円台から1万5000円台までと幅広く、参加者は感覚とじっくり向き合いながら、「高価だと思うワイン」と「最もおいしいと思うワイン」に頭を悩ませていました。

結果発表で最高価格のワインを当てた参加者は、60人中15人。おいしいと感じたのは59人中12人でした。最も人気を集めたのは、2015年のTPP(環太平洋パートナーシップ協定)首脳会合の昼食会でも提供された3000円台のカリフォルニア産ワインです。

結果を受けて、鈴木教授は「高価なワインが必ずしもおいしい・飲みやすいと感じられるわけではないことが分かりますね。安いワインはかみしんプラザのスーパーで買いました。」と語り、会場の笑いを誘いました。

本学名物イベントを支える“つながる力。”

今年度はワインに関心を持つ学生や一般参加者だけでなく、ワイン業界関係者や生産者など幅広い層が来場しました。本学が掲げるキーフレーズ「つながる力。」を象徴するように、多様な人々が交流する場となりました。

当日は鈴木ゼミの学生たちが受付やアンケート集計、試飲講座の運営を担当。また、卒業生や他大学で学んだ教え子も全国からスタッフとして参加し、セミナー運営を支えました。

鈴木教授は閉会にあたり、「今年も無事にワインセミナーを開催することができました。来年度も開催を予定しています。ぜひご参加ください」と呼び掛け、盛況のうちに幕を閉じました。

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