2026.09.29
研究・産官学連携
八尾市にて健康寿命延伸を図る全12回の運動教室実施中 ― 50代からの健康まちづくり

2025年11月から毎月1回、大阪府八尾市にて人間科学部の髙井逸史教授による運動教室が実施されています。これは、2025年9月に髙井研究室と新田ゼラチン株式会社が八尾市と結んだ共創協定(※)に基づく、「フレイル予防」を目的とした取り組みです。

フレイル予防とは、加齢に伴う心身機能の低下を防ぎ健康寿命の延伸を目指す取り組みで、食事や運動、社会参加、口腔ケアなどの継続が重要とされています。

全12回のプログラムの中で、これまでに柔軟性や筋力の向上、バランス感覚や姿勢の改善などがテーマとなりました。今後は尿失禁を和らげる運動や肩こり緩和、骨密度対策を実施予定です。

※参考:八尾市公式サイト「市民のフレイル予防に係る八尾市健康まちづくり共創協定」
https://www.city.yao.osaka.jp/kenkou_fukushi/hokenjo/1008403/1008420/1008359/1020666.html

髙井教授は「健康寿命を延ばす地域包括ケアシステムの構築」を研究テーマとし、高齢者の孤独・孤立予防や居場所づくり、健康づくり活動の推進に取り組んでいます。これまでに大阪市内各所や堺市で、住民や企業、医療・福祉関係者と連携し、ゼミ生とともに介護予防体操やフレイル予防講座、IoTを活用した見守り・健康管理の研究を実施してきました。

今回の「“100歳”まで歩こう!運動教室」では、ひざ痛・腰痛、フレイル予防、認知症予防など、毎月さまざまなテーマを設定。運動だけでなく、認知機能向上を目的としたグループワークなども実施する90分となっています。当日は髙井ゼミの学生2人も参加して参加者をサポートしながら指導に当たり、参加者は楽しみながら健康づくりについて学びました。

八尾市民を元気にするフレイル予防運動教室

会場は提携企業である新田ゼラチン株式会社大阪工場の「クラブ棟2階講堂」です。

参加者は受付でチェックシートを受け取り、握力測定を実施します。次に理学療法士の資格を持つ髙井教授が2ステップテスト(※)を行い、測定結果を記入。さらに、スマートフォンと連動した体成分分析装置「InBody」を用いて筋肉量を測定します。

チェックシートは12か月分を記録できる仕様となっており、継続して記録することで身体の変化を把握しやすくなっています。

※2ステップテスト:スタートラインから大きく2歩踏み出し、その距離を測定することで、筋力やバランス能力、柔軟性を評価する方法。

写真左:握力検査/写真中央:2ステップテスト/写真右:体成分分析装置による筋肉量計測
かむ・飲み込む・話す ― 50代の半数が該当する口腔機能の低下

この日のテーマは「口腔機能(飲み込み)を高める運動」です。

髙井教授から口腔機能と認知機能の関係について説明があった後、毎日続けることで効果の期待できる、舌の力やかむ力を鍛える運動方法が紹介されました。間違えやすい動きを実演しながら、参加者全員で反復練習を行います。

また、発声練習として歌うことの効果にも触れ、全員で『うさぎとかめ』を手拍子に合わせて合唱。歌詞を思い出したり口を動かしたりすることで血流が促進され、認知機能への良い刺激になるといいます。週1回・2時間のカラオケを3か月継続するだけでも、舌の機能の改善がみられたというデータも紹介されました。

風船を使った口腔機能訓練では「うまく息を入れられない人は、口を閉じる力が弱くなっています」と指摘。舌のトレーニングには、かむ力だけでなく飲み込む力や呼吸機能の向上も期待でき、自覚症状がある場合には、2週間ほど継続することで効果が現れるそうです。

髙井教授は「母親も甘いものが好きで、たんぱく質が不足していた」と話します。かむ力や舌の力が弱まると、無意識のうちに硬い食べ物を避けるようになり、栄養不足につながることもあるのだそう。何気ない日常の習慣が負の連鎖の入り口になることを知り、参加者は顔を見合わせながら真剣な表情で耳を傾けていました。

髙井ゼミ生による実演指導 ― 認知機能向上のための複合運動

続いて、髙井ゼミ4年生の木村さんが講師となり、認知機能向上を目的とした複合運動を指導しました。

準備運動では、「痛めないよう、ゆっくりで大丈夫ですよ」と声をかけ、首を傾ける方向を声に出しながら逆方向に動かす運動に挑戦します。難易度が上がると、木村さんは「最初は少し混乱しますが、こちらですね」と笑顔で参加者をリード。会場からは笑い声も上がりました。

終始和やかな雰囲気で指導に当たった木村さんは、中学生スポーツのコーチ経験があるそうで、今回は参加者の意欲的な姿が印象的だったと振り返りました。

木村さんはこれまでに高齢者スマートフォン教室などにも参加
がん予防の観点からも重視される筋力維持

次に髙井教授は、がん予防の観点から筋力トレーニングの重要性を説明。がん治療中も筋力を維持することが治療を支える上で重要だとする最新研究について紹介しました。さらに、新田ゼラチンが行ったコラーゲンペプチドの摂取が筋肉の維持に役立つという臨床試験結果についても触れました。医療現場で注目される筋力維持の重要性について知った参加者たちは、熱心に聞き入っていました。

最後は、髙井教授による椅子を使った全身運動です。この運動は毎回実施しているもので、動作のコツや力の入れ方について適宜アドバイスが加えられます。運動はそれぞれ10回程度の動作ではあるものの、筋肉の収縮を意識しながら行うため十分な運動量があります。高齢者だけでなく50代の参加者も、充実した表情で取り組んでいました。

「首が固くなると、借金があってもなくても首が回らなくなりますからね」――そんな髙井教授の軽妙なトークも交えながら進められる運動教室。興味のある回だけ参加することもできるため、回を重ねるごとに参加者が増えているそうです。今回は49人の市民が参加し、大盛況となりました。

今後予定されているテーマは、尿失禁対策や肩こり緩和、骨密度対策となっています。骨盤底筋のトレーニングを中心に、継続的な筋力トレーニングプログラムを通じ、がん予防の視点も含めた包括的な健康維持を目指す内容となる予定だそうです。

学生の声

―― 参加してみていかがでしたか?

運動教室には今回初めて参加しました。これまでのゼミ活動でも高齢者の方と関わる機会はありましたが、今回参加されていた皆さんはとても元気で、学ぼうとする意欲を強く感じました。

―― 実際にサポートをしてみて、気付いたことを教えてください。

できるだけ分かりやすく伝えることを心掛けていました。地元で中学生向けのバスケットボール教室を指導していた経験が、今回の活動にも活かせたと思います。

―― 普段の授業やゼミではどのようなことを学んでいますか。

講座の準備をはじめ、高齢者の身体機能や健康課題について学んでいます。これまで高齢者向けスマートフォン教室にも参加しましたが、実際に当事者の方々の話を聞くことで、机上の学びだけでは見えてこなかった課題や気付きが得られ、とても勉強になっています。

教員の声

―― 「市民のフレイル予防に係る八尾市健康まちづくり共創協定」締結までの経緯を教えてください。

元々私が、新田ゼラチン公式サイトの『ペプチド研究室』で公開されていた、高齢者の筋肉量とコラーゲンについてのリリースを拝見して、研究科学生の実証実験の参考にさせていただいたのがきっかけです。その後、新田ゼラチンの消費者向け社会活動の一環として運動教室を開きたいとのお話があり、八尾市が実施されている健康まちづくりに向けた取り組みへの共同参画が実現しました。

―― 今回「運動教室」としてプログラムを新たに作られたそうですが、これまで「健康教室」として実施されてきた内容とはどのような点が異なるのでしょうか?

対象年齢を広めに設定している点です。基本的には高齢者の方が負荷をかけすぎずに行える内容となっていますが、対症療法的なアプローチだけでなく、50代のうちから予防的に気を付けておくべき内容もお話の中に盛り込むようにしています。

―― 参加されている方の年齢層を教えてください。

50代から80代まで幅広くご参加いただいています。一番割合が多いのは70代前半の方ですが、みなさん健康情報に詳しくて、はつらつとしてらっしゃいますね。今回行った風船を使ったトレーニングなどは、通常半数ほど膨らませられない方が出るものなのですが、ほとんどの方が対応できていて驚きました。

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