私たちの大学院の第一の目的は「志の高い臨床家」―臨床心理士/公認心理師を養成することです。その目的に合う「豊富な実習」と「臨床指導の体制」を備えています。
臨床家になるためには、一人一人のクライエントにしっかり向き合い、クライエントとの関係性を軸にアセスメントし、更に「治療的に聴く能力」を身につけることがとても大切です。そのためには、まずは自分自身にしっかり向き合うことが必要です。
臨床心理基礎実習では以下のことを学びます。
①ロールプレイを通して院生が、クライエント役の一人になり、話をし、カウンセラー役の一人と傾聴の練習をします。院生にとって、クライエントを演じると、その人の気持ちがよく理解でき、共感的理解の能力が高まります。練習後の振り返りの時間は、実質的にはケーススタディの場になります。それは院生たちにとって、目の前で見たばかり或いは演じたばかりのケースについて、臨床的に学べるライブなケース研究の機会になっています。
②1年次の春学期には、心理臨床センターで行われる実際のインテーク面接に陪席をして臨床場面に慣れて行きます。1年次の秋学期からは心理臨床センターで実際にケースを担当します。
③外部実習(臨床心理実習Ⅰ)に臨む上での事前学習や、実際に外部実習で体験したことのグループ形式での振り返りを行います。
2021年度 1457セッション(うち大学院生・研修員がおこなったのは 610セッション)
2022年度 1451セッション(うち大学院生・研修員がおこなったのは 646セッション)
さらに、私たちの大学院の特長的な領域として、「子ども心理臨床」と「集団精神療法」に力を入れていることがあげられます。
1,子どもの心理臨床
鵜飼奈津子教授を中心に、英国タビストッククリニックの知見を取り入れ、子どもと家族のための精神分析的心理療法の実践を行っています。
2011年度からは、心理臨床センターにおける従来の相談に加えて、『発達相談サービス』を開始しました。従来の一般的な発達相談では、1回の発達検査の実施とその結果に対するフィードバックのみで終結してしまいがちであったり、フォローアップグループへの参加など、集団療育を重視するようなアプローチにとどまりがちであったりすることが多いのが現状です。しかし、このサービスはさらに踏み込んだ精神分析的行動観察を基本にした発達の見立てと理解を提供することを目指して立ち上げたものです。
また、このサービスは、公認心理師の受験資格に必要な「心理実践実習」の一つとして、「地域発達相談実習」という科目と連動しています。そこで、大学院生はこのサービスに特化したインテーク会議、および事例検討会に参加する機会を得ます。また、本サービス専任の臨床心理士や教員が実際に面接を行う場面に陪席したり、その詳細な記録を検討したりする中で、初心者の大学院生も子どもの行動観察によるアセスメントの技術を習得していくことを目指します。同時に、大学院生は学外においても精神分析的知見のあるスーパーヴァイザーからスーパーヴィジョンを受けたり、乳児観察の体験や精神分析的心理療法に関連するセミナー等に参加したりすることも奨励されており、将来の臨床の基礎となるよう、学内外で多くの体験をする機会が与えられるような多彩なプログラムが準備されています。
2,集団精神療法
集団精神療法は、集団の中で対人関係における不適応をきたした個人が、治療的に構造化された安全な集団の中で自分と他者、あるいは全体としての集団との関係を認識し、それを変容させ、成長・回復につなげることを可能とするアプローチです。
また、集団精神療法は、援助者が自分自身について覚知できる領域を深め広げるトレーニングとしても有用です。グループでのメンバー体験を通して、他者との関係の中で自分にどのような感情や感覚が生じているかを見つめ、言語化する力をつけること、同調・協調だけで終わるのではなく、時には痛みを伴うコミュニケーションにも直面化することは、個人療法、集団療法にかかわらずクライエントへの援助にかかわる臨床心理士には肝要です。
このように集団精神療法は、様々な場面で用いられていますが、現状では、臨床心理士/公認心理師養成課程カリキュラムの中で十分な教育を提供できるところは多くないと思われます。
本学准教授の古賀恵里子は、日本集団精神療法学会認定グループ・サイコセラピストであり、2007年にはスーパーヴァイザーの認定をうけました。また、精神科病院における長年の臨床経験の中で、統合失調症やアルコール依存症の患者さんへの集団精神療法、聴覚障害のある患者さんへの手話を用いた集団精神療法などを精神科医、看護師、精神保健福祉士と協働しながら実践してきました。
さらに、臨床現場全体の環境が治療的に機能するための集団を用いたアプローチとして、治療共同体についての研究や実践にも取り組んでおり、現在、イギリスやイタリアの研究者や実践家との共同作業を進めています。
本研究科のカリキュラムでは、「集団精神療法特論」(担当者:客員教授 岸信之)で集団精神療法や治療共同体について学ぶ機会をもちます。グループにおけるメンバー体験については、学外での研究会や学会等での体験グループの情報を提供し参加を推奨します。
修士論文は1名の主査(研究指導教員)と2名の副査(研究科教員,他機関所属の専門家)、計3名の教員により審査されます。
現在までの修士論文題名(一部抜粋)
心理療法のプロセスやセラピスト-クライエント関係に関する論文
・援助者の内的感覚を意識化することに関する考察触媒としての身体
・初心治療者が自分の内面に起きてくることからどう学んでいけばいいのか
・クライエントとセラピストとのつながりを支えているもの ―共感・間主観性・共存在―
・対人援助者がもつ未解決の心理的問題への対処に関する検討-がん患者の支援を通して-
子どもの成長・発達や家族関係に関する論文
・児童養護施設におけるライフ・ストーリー・ワーク ― 施設職員への調査
・児童養護施設における臨床心理学的アプローチ ~個人心理療法と生活場面での関わりの検討~
・子どもの攻撃性が建設的に表出されるために必要な内的および外的資源の研究
・不登校をめぐる親子関係改善への提言 -親子のインタビューから見えたもの-
・自閉を伴う知的障害をもつ子の父親の体験と心理変容について
・和太鼓の集団練習と子どもの社会性の発達に関する一考察
―その心理療法的側面と新版K式発達検査から見た発達課題―
・地域における子育て支援と一次予防―NPO法人Xにおける二児の行動観察から―
・乳児院における乳児の精神分析的観察の一例
・日本の学校におけるいじめ防止プログラムのあり方について
・学習塾における心理的支援のあり方についての一考察
―中学生に対する実態調査と塾長へのヒアリング調査から―
・学童保育所における自閉症児に対する治療的観察の試み
―タビストック方式乳児観察を応用した観察から―
・保育所における配慮が必要な子どもの理解と支援-新人保育士に対して臨床心理士が貢献できること-
・日本と中国における自閉症スペクトラム障害をめぐる現状と課題
・特別支援教育において教員が抱える困難さと困り感に関する質的研究―小学校の通常学級に在籍する知的障害を伴わない発達障害を持つと思われる児童に対する支援―
・育児不安を持つ母親に対する支援―子育て支援において臨床心理士ができることー
青年期をめぐる問題に関する論文
・大学生の昼食時間に関する不安をめぐる一考察-自己愛の2つの型の視点から
・大学生におけるソーシャルスキルと社交不安との関連
・自分がないという状態に関する一考察
ジェンダーや女性性・男性性に関する論文
・不妊治療中の女性の自尊感情に影響を与える要因について
・異性愛社会におけるゲイ男性のアイデンティティ研究
・セクシュアリティの形成と再構築に関する研究
・統合失調症の子を介護する中で親がたどる心理的プロセス
・女性が子どもを産まない選択をするにいたるプロセスについて
・自分の存在に罪悪感を持つ女性の臨床心理学的研究
精神保健領域の問題に関する論文
・統合失調症のピア(Peer)サポートの実際 ―精神分析理論における一考察―
・摂食障害の特徴と治療の工夫 ―治療者へのヒアリング調査より―
・過敏型自己愛の養育環境についての検討
・「新型うつ」の特性評価に関する研究
・派遣労働者におけるワーク・エンゲイジメントと職業性ストレス諸要因の関連
―派遣労働を選択した理由別による検討―
・職場におけるハラスメントとメンタルヘルスに関する研究
・医療リワークで臨床心理士に必要な視点
・「新型うつ」の発症要因の究明とその対応
・アルコール依存症者が抱える生きづらさとその心理的回復支援について
その他
・「コンステレーションワーク」における心理臨床学研究
・マインドフルネス傾向と公的・私的自己意識及び脱中心化の関連についての考察
・四国遍路におけるお接待と自己変容の研究
・マンダラに関する臨床心理学的研究-面接場面にマンダラのダイナミクスを観察する-
・震災が被災者にもたらす心理的影響-心理的支援と臨床心理士の活動―
修了生の多くが常勤或いは準常勤の職を得ています。総合病院、精神科クリニック、ペインクリニック、心療内科医院、児童福祉施設、ホスピス、公立教育センター相談室等の臨床心理士、スクールカウンセラー、キンダーカウンセラー、大学非常勤講師などとして活躍しています。他大学の博士課程に進学した修了生もいます。
1,少人数のアットホームな雰囲気
院生と教員の距離が近く、少人数でアットホームな雰囲気も特長の一つでしょう。わたしたちは院生一人ひとりの長所を伸ばすことを心がけており、1学年定員が10名という少人数制で、個々のニーズをつかんだきめ細やかな指導が可能になっています。また、授業は一方的な講義ではなく、院生が能動的に学べるディスカッションおよび実習形式が主です。そのため、院生が実習先で抱いた疑問など一人ひとりに必要な内容を取り上げることができます。さらに、非常勤講師の先生方も、臨床実践に強い優秀な臨床家です。
院生どうしは仲が良く、助け合って学んでいます。教室には笑顔が多く、院生室も和気あいあいとした雰囲気です。また、在学生・修了生・教員が集まる親睦会が開かれますので、そこで上下のつながりを作ったり、情報交換をしたりしています。
多くの大学院では、学部を卒業してすぐに入学する若い院生がほとんどですが、わたしたちの大学院では、在籍者のほぼ50%が社会人経験者です。40代~60代の院生も少なくありません。彼らはさまざまなバックグラウンドを持っています。たとえば、教師や福祉施設の職員といった近接領域で仕事をしていた人もいれば、全く分野の異なる会社で様々な職種として働いていたなど、社会経験の豊富な院生が多くいます。
彼らは本学の教授陣とトレーニングの質を知ったうえで本学を第一志望校とすることが多く、院生たちはお互いから学び合っています。そのことも本専攻の貴重な人的財産になっています。
2,院生・修了生の声
『少人数制で実習量もケースも多く持て、きめ細やかな指導が受けられます。教育、医療、福祉の3領域で実習ができるのは臨床家としてありがたいことです。教授陣が熱い』(山本早苗:修了生)
『入学してすぐに始まる外部実習や臨床実習など、実践的に臨床を学べる機会が多いことが魅力です。また院生の年齢が幅広く皆が様々な背景を持っており、お互いによい刺激となっています。先生と院生の距離が近く少人数で暖かい雰囲気が、日々の院生活を支えてくれました』(辻内咲子:修了生)
3,高く明確な熱意とプロ意識をもつあなたへ
心理臨床家のトレーニングにおいては、面接技術を繰り返し練習することと、理論を実践に即したかたちで学ぶことが必須で、本学はその機会を豊富に提供します。それに加え、訓練生自身の人間的成長もとても大切です。わたしたちの大学院は、質の高いハイレベルな欧米のシステムを取り入れたトレーニング課程です。プロフェッショナルになるためのトレーニングに、志の高い熱意をもって積極的に取り組む方々との出会いを心待ちにしています。もし、あなたがそういう志をもち、相当な努力をみずから求めて実力をつけたいと願うなら、ぜひ本学を志望校として検討してください。そのようなあなたを歓迎します。
ご質問などは、大学院事務室(in@osaka-ue.ac.jp) にお問い合わせください。