山尾忠弘(経済学部講師)

山尾忠弘所員

〔専門分野〕 経済学
 
〔最終学歴〕 慶應義塾大学 博士課程単位取得満期退学
 
〔取得学位〕 博士(経済学) 
  
〔研究業績〕 本学のデータベースはこちら
 
〔研究課題〕 哲学的急進主義の社会思想に関する研究
 
〔研究目的〕 
 近代英国社会思想の研究では18世紀スコットランド啓蒙思想と19世紀功利主義の断絶と連続がしばしば問題とされた。本研究では、両世紀を跨いで活躍したジェイムズ・ミルと、その周辺に集った哲学的急進派の社会思想を考察することによって、近代英国社会思想史の研究状況に一石を投じたい。
 
〔最近の動向と今後の計画〕
 近年の研究では、J.S.ミル、ジェイムズ・ミルを中心に個別具体的ではあるものの、重厚な研究が重ねられてきている。近年の注目すべき業績として、哲学的急進派を中心とした功利主義者たちの歴史観を取り扱ったCallum Barrell. History and Historiography in Classical Utilitarianism, 1800–1865, CUP, 2021.や、ジェイムズ・ミル研究の貴重なモノグラフであるAntis Loizides. James Mill's Utilitarian Logic and Politics, Routledge, 2019などが挙げられる。これら個別研究の深まりは重要ではあるけれども、本研究に関連する作品としては、Elie Halevy. The Growth of Philosophic Radicals, Macmillan, 1928.、Bruce Mazlish. James and John Stuart Mill: Father and Son in the Nineteenth Century, Basic Books, 1975.、William Thomas. (1979) The Philosophical Radicals: Nine Studies in Theory and Practice, OUP, 1979. などの古典的研究が今なお重要な参照軸となる。
 今後の研究では、まず商業社会をめぐるミル親子の対立を論点としたい。スミスによって典型的な定義を与えられた「商業社会」という言葉は、19世紀においても自らの時代を理解する上でのキータームとして認識されていた。ジェイムズ・ミルは基本的に商業を好意的に見ていたが、J.S.ミルは競争を好意的にみるものの、商業については懐疑の眼差しをむけている。彼らが共に自らの時代を「商業」の時代とみなしながら、その評価については鋭い対立を見せていた点は興味深い。本研究では、「商業」をめぐる二人の対立する見解を導きに、19世紀思想史の一側面を描き出していきたい。
 
(2024年5月)