学長・野風草だより

野風草だより

「おかげ」さまから「ひかり」へ

 「野風草だより」をご愛読いただき、ありがとうございます。2010年12月から始めて1年半ほどの間に、学内のイベントや出来事、私の教育に対する考え方や生き方などを書き連ねて、233回の記事を書いてまいりました。2012年6月末段階で、トップページへのアクセスが計8万回弱、各ページへのアクセスが総計6万3千回となりました。お読みいただいた皆さまに、心から御礼申し上げます。7月から大学のホームページがリニューアルされ、それに伴いこの「野風草だより」も以前とは雰囲気が変わりました。今後とも変わらぬご愛読をお願いする次第です。


 最近の心境を少しばかり述べさせていただきます。目障りかもしれませんが、この頃は私の個人的な考え方や趣味なども書かせていただいております。どうかお許しください。2012年12月ででちょうど60歳の還暦を迎えるにあたり、人生というか干支で一巡りして、いささかの感慨があります。これからは「おまけの人生」かなと思う次第です。もう「おまけ」なんやから、此岸の醜い「我執」を捨て、もっと自由自在な「真我」の生き方、それに基づいた教育や研究を目ざしたいと強く思うこの頃です。
 この10年ほど、私は特定のお札は入れていない神棚に向かい、毎朝「おかげさまで、昨日は無事に過ごすことが出来ました。今日一日もよろしくお願いいたします。」、毎晩「おかげさまで、今日も無事に過ごすことが出来ました。明日も一日よろしくお願いいたします。」と、お祈りしています。どんなお題目よりも、難しい教義よりも、故郷の老母に教えられた「おかげさま」と祈り続けることが、私にはピッタリくるのです。その「おかげ」が、いつか「ひかり」に反転して包まれる日が来るのを願うしかないのです。
 そして、腹式呼吸を何回もした後、神仏習合もいいとこかもしれませんが、「ヴィヤダンマー サンカーラー アパマーディナ サンパーデタ」と、お釈迦様が入滅される時に唱えられた「真正覚」のお言葉を何度か復唱しています。そして老化してゆく体を長持ちさせるために、軽く柔軟体操です。(ただし、夜のお酒だけは、やめられません・・・)
 最近、とみに思うのです。この祈りは私や家族、仲間、ご縁のある方々だけの安心立命を願っているのではないのか。「世界中の人々が幸せになれますように」、「すべてのいのちある生き物が永らえますように」、「天地が平穏で永続しますように」と、口に出して祈ってこなかった私は、いったい何なのだろうかと。まだまだ求道の旅を続けなければなりません。

「そっと手を添え、じっと待つ」

 2010年11月に学長に就任してから、あっという間に2年近くが過ぎました。あれもせねばこれもせねばと思いながら、いたずらに時が過ぎてしまい、忸怩たる思いがあります。学生の皆さんや教職員の皆さんのご期待に添えていないことが多々あり、反省することしきりです。申し訳ありません。ただ2年近く学長をさせていただく中で、私の中で何かしら変化が起きたことも事実です。
 私は農業史・農業哲学の研究を一筋に35年間やってきました。関西農業史研究会はじめ多くの仲間に恵まれました。大経大に奉職して28年間、講義やゼミを行ってきました。今もなお学生たちと講義やゼミでつき合っています。私のゼミ生は、この3月に卒業した23期生で総計500名近くにのぼります。多くの教職員の方々が、何してんの頑張ってよ、100周年に向けて一緒に気長にいきましょうと、せっかちで気弱な私を励ましてくれます。本当にありがたいご縁だと感謝しています。100点満点と言えないことは承知していますが、60点でも十分だと割り切れるようになってきました。
 農業の研究と学生の教育とは一見かけ離れているみたいだったのですが、農業と教育は「いのち」を育てるという点で、まったく同じ原理に立っていることに、この数年でやっと気が付くことが出来ました。
 「そっと手を添え、じっと待つ」
 これに極まるのではないでしょうか。研究で農家の現場を大事にしてきたように、教育も学生目線を貫きたいと思います。

「道理は天地を貫く」

 また、これもありがたいご縁だと感謝するしかないのですが、私は、本学の初代学長である黒正巌博士の直系の孫弟子にあたります。私は黒正博士の学統を継げることに限りない喜びを感じています。黒正博士は、私たちに次の言葉を残してくれました。
 「道理は天地を貫く」
 私たち大阪経済大学が本年の80周年を経て、これからの100周年に向けて、宝物のように大切にしていかなければならない言葉は、これです。これしかありません。言葉は力であり、言霊であり、道しるべです。日本で、世界でただ一つ、大阪経済大学でしか言えないこの言葉と心を、これからの21世紀の日本社会を担う若人たちに伝えていこうじゃないですか。これこそが大阪経済大学が社会に果たすべき使命、ミッションではないでしょうか。
 「こころざしを立てて、貫く」
 「おかげさまと、感謝し祈る」
 これが学長としての私が若人たちに伝えたいメッセージであり、大阪経済大学の教育の神髄であってほしいと思うことです。「愛と志のある教育」です。学生の皆さん、教職員の皆さん、卒業生の皆さん、これをお読みいただいた皆さん、是非「道理とは何か、真理とどう違うのか」、「天地と世界はどう違うのか」、「ただ在るのと、貫くという方向性を持つのはどう違うのか」、「道理貫天地」の「イ」「ミ」を、「イノチ」の限り「ミを入れて」、お考えいただければ幸甚です。

「野のようにたくましく 風のようにさわやかに 草のように生き生きと」

 この「野風草だより」のトップメッセージも、今回で3回目(2010.12 2011.11 2012.8)となります。心境は少しずつ変わってきていますが、同時に変わらない、変えたくない部分もあります。私は「素」のままであり続けたいと思います。「私は、私ならずして、私なのです」。
 最後に改めて、「野風草だより」の名前の由来を書かせていただきます。もう26年も前、今は48歳前後のおじさん・おばさん(ごめんね)になっているゼミ1期生が卒業するにあたり、弱冠35歳の新米教員である私は、「野のようにたくましく 風のようにさわやかに 草のように生き生きと」生きていってねと、はなむけの言葉を贈りました。今ならそんな青(アホ)くさいことはよう言いませんが、その心だけは今も続いています。ゼミの卒業生たち500名との集まりを「野風草会」と名付けて、今もなんやかんやと会い、昔の先生と学生の気分に戻って酒を飲み話が出来るのは、本当にありがたいことです。 

 石川九楊さんの『一日一書』(二玄社 2002)に、「野(副島種臣)・風(良寛)・草(唐の太宗)」の3字を見つけました。いずれも個性的ですばらしいですね。こうした日本・東アジアの何千年の文化的伝統を、21世紀のグロバール世界の中でも、見失わないで受け継いでいきたいものです。


 
2012.8.1 学長 德永光俊