【2023年度】田島良輝ゼミ スポーツを通じて社会課題の解決を図るパイロットプログラムを企画・運営

交野市と連携した夏休みの子ども向けプログラム

人間科学部の田島良輝教授は、2019年から交野市と市民による地域のスポーツ活動活性化のための拠点づくりを支援し、ワークショップのファシリテーターを務めてきました。スポーツ環境の充実はもちろん、スポーツをする子どもとしない子どもの二極化、学校部活動の運営、子どもの居場所づくり、新たな交流拠点づくりといった地域が抱える課題の解決も目的として、市や市民との協働を進めています。
2023年7月31日から、交野市の地域スポーツ拠点づくりに向けたパイロットプログラムが開催されることになり、田島ゼミの学生が企画・運営に参加しました。学童保育に通う子どもたち約50名を対象とした「夏休みの宿題&水泳教室」として、朝9時から夕方5時まで平日の5日間実施するプログラムです。
田島先生は、このプログラムを企画した狙いを次のように話します。
「夏休みは子どもたちにいろんな経験をさせるチャンスですが、仕事を持つ保護者にはなかなかその時間が取れません。学童保育はあくまで生活の場なので限界もあります。そこで大学生が宿題をみたり、一緒にスポーツをして楽しむプログラムを実施し、子どもたちに普段とは違う体験を提供するという機会を提案しました」
スポーツで地域の課題を解決する事例として理解されやすく、保護者など様々な立場の人から賛同されたといいます。

交野市の担当者とやり取りしながら綿密に企画を練り上げる

プログラムは、午前中は学習支援とレクリエーション、午後からはプールでの水泳教室という構成です。レクリエーションや水泳教室の企画は、学生が一から組み上げました。レクリエーションでは、障害物競走やしっぽとりなど昔ながらの遊びを取り入れ、楽しみながら体を動かすメニューを考案しました。水泳教室は泳ぎを教えるというよりゲームをしながら水に親しんでもらえるようにし、レクリエーションと合わせてそれぞれチームで競い合う形式を採用しました。
これらプログラムの内容は学生自身で企画書にまとめ、交野市の担当者と相談しながら決めていったといいます。大筋が決まってからは現場でも確認するなど、入念に準備を進めました。
「直接会ったり書面でやり取りするなど、状況にあった形で情報をいかにわかりやすく伝えるかに苦心しました。立場が違う人同士が協働するために大切なことを学べたと思います」と人間科学部4年の矢部萌奏さんは話します。
準備の途中で、問題点に気づいたこともあったとか。「学生によってルールや実施内容のイメージに違いがあることがわかったんです。そうした食い違いを防ぐために、全体の流れや役割、準備物が一目でわかるマニュアルを作成しました」と矢部さん。何が必要なのか自分たちで考え、イベントの成功に情熱を傾けていたことが伝わってきます。

想定外の問題発生。自分たちで気づき乗り越える

そこまでやっても、完璧にイベントが成功したわけではありません。ある日は、子どもたちが騒がしくてルールの説明に時間がかかり、ますます子どもの集中力がなくなって騒がしくなるという悪循環に陥ったこともあったそうです。収拾がつかず、学生のモチベーションも低下していきました。
「立て直すにはどうしたらいいか、昼休みに学生みんなで話し合いをしたんです。すると、みんな問題点を的確に把握していることがわかりました。問題点ごとに解決策を考え、午後はすっかり軌道修正できていました。このように、自分たちで問題を発見・共有し解決に向けて動けたことは、学生も自信につながったはずです。成長するために、自分たちで気づくその瞬間が大切だということが、改めて実感できました」と田島先生は振り返ります。
最後の日には、優秀な成績のチームを表彰すると同時に、参加した子どもたちみんなの健闘を称える時間を設けました。「頑張ったのに何ももらえなかったら悔しいだろうと、『がんばったで賞』や全員プレゼントを企画していました。子どもたち全員に喜んでもらうのが第一だと思ったからです。5日間の写真や動画をまとめたスライドショーも用意しました。子どもたちからはアンコールがかかるほど好評でした」と人間科学部4年の春田萌衣さんは話します。参加した学生全員が子どもたちからサインを求められたり、絵や手紙をもらうなど、「スーパースターになった気分だった」そう。想像以上に盛り上がり、子どもたちにも満足してもらえるプログラムになったようです。

体験だけでは終わらない。卒業論文テーマとして研究

田島ゼミはスポーツマネジメントを研究するゼミです。スポーツの支え手やつくり手に必要なマネジメントの手法や、お客さんが欲しいものを提供するマーケティングの手法を、課題解決型の学びも積極的に体験しながら身につけています。
田島先生はこのプログラムの経験とゼミの学びとのつながりについて、「このようなプログラムを今後、お金を取れるようなものにするためにどうしたらいいかというのも一つのテーマです」と話します。学生からも、「地域プログラムとして大切なのは、低コストでどれだけ楽しませられるか。楽しんでもらうことはもちろんですが、お金の動きを把握することも大切」という意見が出ていました。
「プログラムの運営には学生はもちろん、交野市の担当者やプール監視の専門業者など多くの人が関わっています。そうした労働への対価、プールの使用料やプレゼントといった物品など、すべてのコストを積算した上で、サービスの質をどのように向上させるのか、その場合価格設定はいくらが適正か、来てもらうためのプロモーションはどうするか。地域のスポーツプログラムの研究課題はいくらでも見つかります」と田島先生。参加した学生の一人は、今回のプログラムをテーマに地域スポーツプログラムのマネジメントについて卒業論文を書く予定にしているそうです。田島先生は、「できれば、交野市の人に提出して指導をいただくといったところまでできれば」と期待しています。

連携を通して学び・成長の場としての充実に期待

今回のプログラムの実施に先立って、交野市と本学で包括連携協定を締結しました。これを機に、今後はゼミ活動の幅も広げていく予定だと、田島先生は説明します。
「毎年4月に開催されている交野マラソンで、参加者を対象にした満足度調査を行い、さらにサービスの質をあげるための提案を行えればと考えています。また、学校部活動も最近よく議論されるテーマです。交野市立中学校の運動部活動を対象に調査し、学校部活動が社会にもたらす価値が投入したコストと見合うかどうかを専門的な指標を使って分析することも計画しています」

田島ゼミは、提供する側の視点でスポーツを考えるゼミです。競技スポーツや体育教員だけではないスポーツの世界の幅広さを感じられる、様々な学びが特長です。交野市との連携によって、スポーツを通じた社会問題の解決という新たな方向へと視野を広げていく学生も増えていくことでしょう。学生に交野市と今後やってみたいことを聞いたところ、「マイナースポーツの大会を実施して、運動の得意・不得意にかかわらずスポーツの楽しさ・面白さを感じてもらいたい」「幅広い年齢層との関わりをつくり出したい。高齢者の健康増進につながるプログラムにもチャレンジしたい」など意欲的な意見が寄せられました。
「学生は、外に出ていろんな体験をすることで、教室では見られない思いがけない力を発揮してくれます。今後も、そんな成長の場をつくり、充実させていきたいと思っています」
学生を成長させる場としても連携を重視したいと語る田島先生。今後のゼミ活動が楽しみです。