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【実施報告】公開特別講座「最近の内外経済情勢と関西経済」

2022年12月20日(火)

日本銀行大阪支店長が語る、経済情勢と今後の展望

2022年11月14日、高口博英氏(日本銀行理事 大阪支店長)を講師にお迎えし、公開特別講座を開催しました。本講座では、「最近の内外経済情勢と関西経済」と題し、国内外の経済状況や今後の課題を踏まえ、関西経済が成長していくために重要となるポイントについて語っていただきました。当日は、「金融政策特論」の講義の一環として聴講する学生のほか、一般の皆さまも来場され、オンライン聴講を含めて183名に参加いただきました。

[プロフィール]
高口博英氏
東京大学法学部を卒業後、1988年日本銀行に入行。岡山支店長、総務人事局審議役(人事運用担当)、金融機構局長を経て、2021年に日本銀行理事、大阪支店長就任。
 
 
インフレ圧力の高まりが世界経済全体の課題
高口氏はまず、世界経済の状況について、コロナ感染拡大で急減した需要はすでに回復したが、供給・物流の制約、人手不足、脱炭素化などの影響でインフレ圧力が高まっていると説明しました。こうした状況下で、欧米主要国の中央銀行は急速なペースで利上げを行っており、景気は減速する見通しであると分析します。
 
一方で、欧米よりも慎重なコロナ対策を実施した日本経済は回復途上にあり、IMF(国際通貨基金)の発表によると、来年の経済成長率はG7の中で日本が最も高い見通し。ただし、日本でも欧米と同様に物価上昇の動向には注視が必要であると、高口氏は指摘します。
金融政策については、「日本経済は回復途上にあることから、金融緩和を続けていく方針です。長い目で見て、経済が成長して企業の収益が上がり、それに伴って賃金が上がり、ゆるやかな物価上昇があっても生活水準が維持され、日本全体としてより良い方向へと進んでいく経済の好循環を目指していきたい」と、日本銀行の考えを話されました。
 
関西経済は、電気・電子分野に強みのある企業が多いことから、全国の水準と比較して輸出動向が順調であるものの、中国経済の下振れ影響を強く早めに受けている点が注視すべきポイント。設備投資に関しては、やや長いスパンでの成長を見据えて積極的に進めていく姿勢が他地域と比べて強く見られることが分かりました。
 
これらの経済状況を踏まえた今後の課題の一つとして、高口氏は全国的に人手不足感が強まっていることを挙げました。とくに関西ではインバウンドや大阪・関西万博の影響で人手不足が急速に顕在化する恐れがあると分析。「省力化投資やデジタル技術の活用による人手不足の解消、付加価値の高いサービス・製品を提供していくイノベーションをどのように実現していくかが今後の重要な課題だと思います」と話しました。
 
 
大阪・関西万博への期待と今後の注目点
大阪・関西万博に対して高口氏は、「ポスト・コロナの世界観・歴史観を提示し、日本の産業・技術力を世界に発信する機会となってほしい。また、若い世代が世界のトップレベルを体感し、世界の人々と直に触れ合って刺激を受け、その経験を将来につなげられれば、人への投資という意味で、何にもかえがたい素晴らしい投資になるのではないか」と開催への期待を語りました。
 
次に、今後の経済の成長を支えていく重要な要素として、高口氏はいくつかのキーワードを提示しました。その一つはインバウンドです。関西は観光資源が集積している地域であり、医療や学術のレベルも高いため、これらを活用すれば大きな力となる可能性があります。また、脱炭素化に関しても、原材料や素材、製造工程管理などで高い技術を持つ企業が関西には多く、脱炭素化につながる技術開発や研究開発投資を行って新たな需要を創出できれば、企業にとってのチャンスとなり得ると説明します。
 
さらに、「ソフトウェア開発によって業績を伸ばしてきたデジタルの分野では今後、ハードウェアの技術開発が注目されるだろうと考えられており、日本企業の技術力に期待が寄せられています。加えて、成長が期待されるライフサイエンスの分野でも、ものづくりは周辺機器がなければ支えられないため、関西企業の持つ技術力が活かせるでしょう」と、高口氏は関西企業の可能性を示しました。
 
こうした技術力を活かしていく上で、大企業だけではなく中小企業も世界と直接つながることが必要なのではないかと、高口氏は指摘します。というのも、欧米に加え、今後の世界経済の成長ドライバーとなる東南アジア、インド、中国と直接つながる道が拓ければ、企業の持つポテンシャルが開花して実を結んでいくのではないかと考えられるからです。
また、近年、国際情勢が不安定になるなか、サプライチェーンの再構築が世界で進んでいます。調達先の選択において従来はコスト面が重視されてきましたが、サプライチェーンを安定的に維持するという観点から、日本が大切にしてきた民主主義や言論の自由、法の支配といった世界共通の価値観や、日本の技術の環境性能の高さなどが評価される可能性があり、こうした価値を日本がいかに対外的に訴求していけるのかが重要だと話しました。
 
最後に高口氏は、「関西には大きなポテンシャルがあります。さらに大阪・関西万博が開かれることもあり、今、大きなチャンスが関西に巡ってきていると感じています。世界の大きな流れをしっかりとつかみ、成長を実現していければ、日本全国に大きな示唆を与えられるのではないでしょうか」と、関西企業へ力強いエールを送りました。続けて、「これからの世界を動かしていくのは若い世代の皆さんです。私たち現役世代も最大限に良い形で引き継いでいきたいと思っているので、ぜひ健闘していただきたい」と学生たちに呼びかけました。
 
関西への期待を語られた高口氏の話に、経済の現場で奮闘する企業人も日本経済の将来を担う学生たちにとっても、明るい未来へと進んでいくヒントや励みをもらえた講演となりました。
 

講演に先がけて、理事長室で懇談を行いました。  (写真)左から 山本学長、藤本理事長、高口氏、福本経済学部教授、髙橋経済学部教授