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【実施報告】大久保裕晴客員教授による公開特別講座「地域金融機関の現状と課題」

2023年02月06日(月)

金融機関が抱える多くの課題と今後の展望を語る

2022年12月19日(月)、本学客員教授であり、播州信用金庫常勤監事を務める大久保裕晴氏を講師に迎え、公開特別講座「地域金融機関の現状と課題」を開催しました。大久保氏は、日本銀行勤務を経て、地方銀行や一般企業の経営に携わってきた経験を踏まえ、金融機関の現状や直面している課題について詳細に解説。本学学生のみならず、多くの地域の方々にも聴講いただきました。

[プロフィール]
1975年日本銀行に入行し、人事局総務課長、考査役、函館支店長、神戸支店長などを歴任。その後、神戸大学大学院経済学研究科教授、池田銀行(現 池田泉州銀行)顧問兼株式会社自然総研社長を経て、2020年より播州信用金庫常勤監事を務める。このほか、兵庫県立大学、甲南大学大学院で非常勤講師や客員教授、三ツ星ベルト株式会社、アサヒホールディングス株式会社などで社外取締役や社外監査役を歴任。
 
 
課題から見えてくる、既存金融機関が生き残る道とは
大久保氏は銀行の業務内容など金融機関の基礎知識について説明した後、大手行、地域銀行、信用金庫における昨今の経営状況を明らかにしました。大手行、地域銀行、信用金庫ともに、長期にわたって厳しい経営状況が続いていましたが、直近2年ほどは低水準ではあるものの利益が増加。これは、コロナ関連で業績が悪化した企業に対し、国や地方自治体が支援して実質ゼロ金利での融資を行い、法人向け貸出が増加したことが大きく影響しています。とくに地域銀行や信用金庫では、中小企業向けの貸出が伸びました。ただし、この伸びは一時的なものであると大久保氏は指摘します。「2023年度からコロナ関連融資の返済が本格化すると貸出残高は減り、貸出による金利収入の水準を維持するのが難しくなるかもしれません」
 
金融機関にとって厳しい経営状況が続く背景には、長期の金融緩和による貸出採算の悪化に加え、企業の資金余剰傾向に伴う貸出需要の減退が挙げられます。また、生産年齢人口の減少や若年世代の大都市圏への人口流出といった日本の人口動態や居住エリアの変化はさらに進んでいく見通しで、とくに地方を主戦場とする地域金融機関には大きな課題となっています。
金融機関の将来という視点から重要な経営課題となるのは、フィンテック(FinTech)企業という新しい金融の担い手との競合です。フィンテックとは、金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語で、金融サービスと情報技術を結びつけたさまざまな革新的なサービスを指します。「キャッシュレス決済や仮想通貨など、インターネットやスマホ、AI、ビッグデータを活用した新しい金融サービスを提供するベンチャー企業が次々と登場しています。これらの新しいサービスはめざましい進化を遂げ、金融機関の三大業務である預金、融資、為替の分野に進出しており、既存の金融機関はフィンテック企業と競い合っていかなければなりません」
 
また、これらの構造的な課題以外にも、海外金利上昇下での外積投資の損失拡大、顧客本位の業務運営への対応、システムリスクやサイバーセキュリティへの対応など、金融機関はさまざまな課題に直面しています。しかし、そうした金融機関の足許にある課題の中には、今後の展望につながる事柄もあると大久保氏は話します。「例えば、企業の後継者不足問題への対応は、地域金融機関が中心となって関わるべき課題だと考えます。休廃業・解散する年間約4万件の企業のうち、収益は黒字であるが後継者不足を理由とする企業が半数ほどあります。こうした後継者不足の中小企業にM&A仲介業者が関わって事業承継を行う例が増えていますが、地域に幅広いネットワークを持つ地域金融機関こそ、事業承継に関するM&A業務に積極的に関与し、地域に貢献するとともに、その仲介手数料を収益源の1つとしていくことが重要です」
 
2017年、国際的な金融ルールの策定機関であるバーゼル銀行監督委員会は、金融機関の未来についてのレポートを発表しています。そこでは、①既存の銀行がより高度な金融サービスを提供、②新規参入した企業が既存の銀行の金融サービスを代替、③既存銀行と新規参入企業との分業・協業、④有力なオンラインサービスを提供するプラットフォーマーなどが顧客接点を支配し、既存銀行はその配下に組み込まれる、⑤ネット経由で貸し手と借り手が直接結びつく仕組みが金融仲介機能を代替することなどにより、金融サービスの提供主体という概念すら消滅、という5つのシナリオが示されました。
 
大久保氏は、「どのシナリオが支配的になるのか、今はまだ分からない」と言います。ただ、未来に向けた変化の一つとして、“組み込み型金融(Embedded Finance)”の可能性に着目していると話します。これは、金融業以外の事業者が金融商品や金融サービスを事業に組み込んで提供するというもの。例えば、配車サービスを利用する時、事前にクレジットカードなどの設定を済ませておくと、降車時の決済手続きが不要となります。こうした金融サービスの新たな動向を念頭に、「既存金融機関は自前で何でもするという考えを捨て、外部の非金融機関との連携強化を図っていくことが重要」と指摘しました。
さらに、地域金融機関が今後の生きる道を模索する上で、顧客情報や情報技術を大切にすることに加え、相談業務などを通じて顧客からの信頼をしっかり築いていくことがポイントとなると語り、講演を締めくくりました。
 
事業者のみならず一般消費者にも身近な存在である金融機関とそのサービスについて、現在の状況と新たな動向を詳細に知ることができ、聴講者にとって有益な講演となったに違いありません。