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【実施報告】外国人留学生が地域の人と学ぶ「防災ピクニック」

2023年03月16日(木)

外国人留学生の防災意識を高めるイベントを開催

2月16日、外国人留学生が地域の方々と共同で、防災知識を学んで体験する「防災ピクニック」を本学大隅キャンパス周辺で開催しました。地域の防災拠点の一つである公園で、東淀川区役所と東淀川消防署から防災に関する説明を受け、留学生の視点でまとめた防災レポートを報告。外国留学生間で防災情報を共有し、災害に備えることの大切さを改めて認識しました。その後、本学に設置されている防災用「かまどベンチ」を使用して炊き出しを行い、地域の方々と交流しました。
当日は、テレビ局3社、新聞社5社、ラジオ局1社に、防災ピクニックの様子を取材いただきました。

 
地域団体と連携して外国人留学生に防災情報を発信
 
今回の企画は、人間科学部・髙井逸史教授のもとに、地元の団体が主催する「防災ピクニック」へのお誘いがあったことからスタートしました。「防災ピクニック」は、防災関連情報を発信する「東淀川防災アシスト」、東淀川区の子育てママの自助グループ「まま☆スマイル」が主催し、防災知識を広めることを目的として野外での炊き出しなどを行っています。今回は、人間科学研究科・髙井ゼミの中国人留学生の発案により、炊き出しに加え、本学留学生が防災知識を学ぶ企画を実施する、2本立てのイベントが実現しました。
 
留学生に向けて防災情報を発信する企画を提案したのは、昨年、株式会社シマノ主催の「ソーシャル×散走企画コンテスト」に参加した4人の中国人留学生です。コンテストでは、災害弱者になりがちな外国人留学生の視点から、サイクリングを楽しみながら地域を知り、防災意識を高めることをテーマとした企画を提案し、全国から6チームが選出された最終審査会でプレゼンテーションを行いました。コンテストの取り組みを通じ、災害時には地域の力が欠かせないことを知り、自分たち以外の外国人留学生にも防災の知識を広めたいと考えたと言います。その思いを実現するため、今回の企画を提案しました。「防災ピクニック」には、コンテストに参加した4人と髙井教授の呼びかけで、6人の本学外国人留学生が集まりました。
 
 
行政の協力を得て、実地で役立つ防災の学び
 
第1部では、本学大隅キャンパスからほど近い「松山公園」で、外国人留学生が防災について学びました。松山公園は災害時の一時避難所に指定されており、災害時に役立つ資機材を備えた「防災倉庫」もあります。まず、東淀川区役所地域課の担当者からは、地域特性からみた地震や水害のリスクについて説明した上で、「市や区では災害用の備蓄を行っているが、全住民分には足りないので、皆さんにも3日分の備蓄を各家庭でお願いしたい。また、区のホームページや広報誌で防災に関する情報を発信しており、それらを活用して防災の知識を得てください」とのお話がありました。

東淀川消防署員の方は、防災倉庫に備えられた資機材の使い方を説明してくださいました。倉庫にある可搬式ポンプは、消防車に設置されているポンプと同様で、住民が使うことを想定したもの。災害時に同時多発的に火災が発生した場合、消防署の設備だけでは対応できず、地域の人々の自助が必要となるからです。留学生は実際にポンプを手にし、使用方法を教わりました。倉庫のそばにある地下の貯水槽の中も見せてもらい、初めて見る設備に興味津々でのぞきこんでいました。

倉庫の中にはポンプ以外に、バールやスコップ、タンカなど救助のための用具が入っています。タンカに乗った消防署員を8人で持ち上げてみる留学生たち。簡易なタンカなのでおそるおそる試すと、スムーズに持ち上がって驚きの声が上がりました。最後に、2018年の大阪府北部地震で発生した火災の実例を挙げ、「地震対策をしておけば、防げた火災だったのではないかと思う。この機会に、身の回りの備えを見直してほしい」と伝えられた消防署員の言葉は、しっかりと留学生たちに届いたことでしょう。
 
次に、張倩さん(人間科学研究科 修士課程1年)、曹瑞芳さん(人間科学研究科 修士課程1年)が散走コンテストで発表した企画内容を紹介しました。日本に住んでから地震を経験して災害を身近に感じるようになり、言葉の問題や情報不足などで外国人は災害弱者となりがちだという課題を持って取り組んだと、企画意図を説明。東淀川区の地域特性を調査し、自転車で走って訪れた防災拠点や川周辺の様子などを伝えました。そして、外国人の災害に対する不安は、防災マップやハザードマップを知らないといった情報不足が大きな原因だと指摘し、「知識を得て、災害に備えることが大切」と話しました。
 
 
「かまどベンチ」で炊き出し体験
 
防災に関する学びを深めた後はキャンパスに戻り、地域の方々と炊き出しを体験する第2部に留学生たちが参加しました。炊き出しに利用するのは、正門の前に設置された「かまどベンチ」です。座面を取り外すと、炭や薪を使って煮炊きができるかまどへと変身し、災害時に役立つという優れもの。
 
公園を訪れている間に、地域の方々と髙井ゼミの日本人学生が準備を進めてくれていました。合流した留学生も参加してみんなで協力し、具だくさんの味噌汁やおにぎり、焼き芋が完成。小さな子どもから学生、年配の方まで、幅広い年齢層の参加者が一緒に食事を楽しみます。寒さが厳しい2月の野外での炊き出しで、温かい味噌汁が大好評。味噌は、地域の参加者の方の手作りなのだとか。これまで地域の方々との交流経験がなく、緊張ぎみだった留学生も「美味しい」と思わず笑顔がこぼれます。

 
楽しみながら学びを深めた防災知識
 
散走コンテストに参加した留学生は、さらに学びが深まったと感想を述べていました。
「中国では防災訓練を経験したことがなかったので、防災倉庫について知れたのが興味深かったです。コンテストで自分の防災意識が高まったので、他の留学生にも安心して日本で過ごせるように、これからも防災イベントに関わりたい」(張倩さん)。
「防災用具を見たのも使い方を知ったのも初めて。自分でも使えそうだと思えて、さらに災害への不安が減少しました。楽しい交流と学びができたので、より多くの留学生や日本人学生にも参加してもらえるイベントを続けたいです」(曹瑞芳さん)。
 
今回のイベントで日本の防災知識に初めて触れたという、曹雲彤さん(人間科学部2年)は「日本は地震が多くて不安も感じていましたが、これまで防災の知識はありませんでした。今日は避難場所などについて知り、災害の時にどうすればよいのか少し分かって良かったです。味噌汁が美味しくて炊き出しも楽しかったです。このようなイベントがあれば次も参加したいと思っています」と笑顔で語りました。
 
髙井教授は「留学生にとって、地域を知り、人々と交流できるイベントは貴重な機会。皆で助け合って本当の意味で豊かな暮らしができるようになってほしいと願っています。一過性の取り組みで終わらせず、例えば〈防災カフェ〉の開催など、持続的な活動を行っていきたいと考えています」と話しました。
 
防災について学び、地域の方々とも楽しい時間が過ごせた「防災ピクニック」。留学生たちにとって、得るものが多いイベントとなったに違いありません。