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経済学部 松尾隆之客員教授 「知識経済社会に向けた知的生産性の構造改革 Global Innovation とEntrepreneurship」

2023年03月28日(火)

 日本経済は、90年代にICT(情報通信技術)の技術革新の利活用が遅れ、その後も知的経済社会への変革の中で生産性が低迷している。世界経済は、ICT・AT(人工知能)と大量データ利活用(深層学習自立最適化)、量子技術・光電融合の社会実装などデジタルの技術革新の波(DX)とカーボンニュートラルを基軸とした水素社会に向けたグリーントランスフォーメーション(GX)の大きな変革期にあるといわれている。我が国としては、少子高齢化社会への財政制約及び長期の低金利政策の副作用緩和と「新常態」への変曲点の中で、技術革新を活かした知的生産性を高めていくための構造改革を加速することが緊要である。
 
 本稿ではOECD勤務の経験及び知的生産性の各国比較指標・分析を踏まえ、日本が遅れているグローバルイノベーション(自らの強みをグローバルに相互補完し相乗効果を高める連携戦略)及びEntrepreneurshipについて、ゼロから一を生み出す起業家精神に富み、知と技術のグローバル連携(Co-invention)のトップランナーであるイスラエル(産学官軍連携イノベーション)との比較・連携含め、現状と課題を整理したい。
 
90年代のICT生産性の遅れ→ICT・AIの利活用による知的生産性を高める余地は大きい
 OECDは、90年代の先進国の経済成長率の格差拡大の要因を分析し(いわゆるNew Economy論の生産性分析)、長期的成長の原動力としてICT(情報通信技術)の利活用をはじめとするイノベーションの生産性の重要性を強調するGrowth Reportを2001年に公表した。その後、ICT含め知識経済を牽引する知的生産性の分析(各国比較指標:Science, Technology and Innovation Scoreboard参照)とともに知的生産性を高めるための各国の構造改革を提言してきた。
 
 具体的には90年代のICT生産性分析では、日本はIT機器の生産大国であったにも拘わらず、ソフトウェアやサービス産業の生産性は低くICT利活用は遅れ、生産性の伸びが90年代後半から失速した(図表1:失われた90年代)。一方米国経済は90年代までの年率1.4%から後半には3%成長に高まり経済全体にITが浸透し(図表1)、ICT技術革新によるシリコンバレーをはじめとする起業ネットワーク、グローバル連携により、とくに2000年からはビッグデータ利活用によるGAFA等プラットフォーマのスタートアップ企業の成長に見られるように米国の民間知的投資(Knowledge〈intangible〉based capital)が生産性を牽引してきた(図表2、OECD分析(2001年から2010年)では民間知的投資と一人当りGDPの成長は正比例の相関)。

 日本はその後もOECD比較指標を見ても30年間にわたり技術革新の波をうまく生産性の向上に結び付けてきたとは言い難い状況である。主要国の研究開発費総額の推移を見ると2010年以降中国(OECD指標:日本を抜いて2位)と米国(トップ)が大幅に増加しており、日本の研究開発費は対GNP比率で3.2%(OECD平均は2.4%、イスラエルは5.4%でトップ)であるもののその内訳は企業が約7割、民間主体であり政府の研究開発費の対GDP比率の推移を見ると基礎研究への支援が他国に比して極めて弱い(政府負担研究開発費の対GDP比率は0.47%、官民負担割合は図表3)。

産学官の資金の流れを見ても産業界から大学・研究機関への資金比率は低く(企業の総研究費に対する大学研究費への拠出割合はわずか0.4%程度)、産業部門の海外から受け入れた研究開発費の比率は、日本はOECD諸国の最下位で(イスラエルはトップ)海外との連携含め産学官連携が他国に比して大きく遅れている(図表4)。とくに人材の国際的流動性は極めて低く(図表5:OECD指標で最下位グループ、イスラエルはトップレベル、人口当たりのドクター取得者も少なく待遇含めドクター人財の活用も遅れている)、論文のCo-authorship及び特許Co-invention指数でも日本は最下位グループ(イスラエルはトップグループ)であり国際連携が弱く、内向き指向から脱却することが急務である。主要国の論文発表数(Top1%補正論文数)では2020年に中国が米国を追い抜き、特許件数とともに中国が急増しトップとなり(AI関連特許数もトップ)、日本は量質ともに論文数、特許数においても世界の存在感は年々低下(論文引用数は12位に陥落)している。

 世界の時価総額の上位企業の推移を見ても、平成元年(1989年)はNTTが世界一でトップ5を日本企業(金融)が独占し上位50社中32社は日本企業であったが、2022年のトップ10はサウジアラムコ(石油)、台湾TSMC(半導体ファウンドリー)を除きGAMMAGoogle, Apple, Meta platforms, Microsoft, AmazonIT企業とテスラの米国企業が独占し、日本はかろうじて50位以内にトヨタ自動車1社のみの寂しい状況である。

 とくにOECD指標では「起業化(Entrepreneurship)」「知のグローバル連携(Co-invention)」は大きく遅れ、ICT技術やAI等を活かす教育、労働市場・人材流動性の改革は急務である。起業促進については、OECD指標では企業の参入撤退の激しい国ほど成長のパフォーマンスは良好であること、すなわち、効率の悪い企業が市場から撤退しより効率的な新規企業に代わることが生産性を高めることに不可欠であることを示している。参入障壁撤廃ととともに、撤退を遅らせる政策から敗者復活迅速化、人的資源の再利用の円滑化を進めることが肝要である。ベンチャーキャピタルの資金やハイリスクハイリターンにあった資本市場の変革のみならず、スタートアップに必要なノウハウ、市場開拓、財務、会計・税・法律等知識・経験のネットワークと技術と資金の結合が必要であり、そのためのグローバルな人的資源(人脈・人的連携含め)が重要であり、創発や相互補完を促進する人的連携の場づくりや敗者復活を促進する自由な企業風土にも密接に関連する。イスラエルのスタートアップ要因のように、初期段階で外資を積極的に呼び込みグローバル人脈と連携するスキームも重要である。長期的な生産性低迷の原因でもある知的生産性の構造改革の遅れと改革に危機感が乏しい。
 
ものづくりの強みにIT/AI利活用を刷り込みグローバルな知的連携を
 デジタル技術革新による知識経済社会への成長の源泉は、従来の経営資源(ヒト、モノ、カネ)に加え、データが重要な資源となり価値創造に繋がる。AI活用においては、多くのデータを集め利活用する企業は、ディープラーニングによってAIの性能を向上させ、その価値創造のスパイラルに、さらに多くのユーザー(データ)を惹きつけ、圧倒的な強さを獲得し市場を支配する。いわゆる「First Runner, Winner takes all」(メガプラットフォーマー)のビジネスモデルや付加価値の高いビジネスを生み出すことができる。100年に一度と言われる大変革期を迎えた自動車業界は、IT、保険・金融、テレコム、サービス業界などを巻き込み、自動走行サービスなど新しいモビリテイサービス開発(CASE)に見られるように、デジタル化はモビリテイ改革に連動している。異業種との協創によりデータを支配し価値創造を産み出すところが勝つため、熾烈なデータ獲得とAI利活用の競争が繰り広げられている。テスラはEVにICT/AI利活用をいち早く取り込み時価総額でトヨタを凌駕し急成長を遂げている。
 
 ものづくり現場においては、画像や振動などのセンサー情報が製品・機械・部品のサプライチェーンや生産現場と連動し、通信技術とともに遠隔での状態監視も可能となり、AIによるデータ分析アルゴリズム解析とともに、工程・品質管理、物流効率化、異常検知、安全保安に多大な貢献をもたらす。AIロボットは自動運転、介護・家事とともに、少子高齢化熟練不足で悩むものづくり現場のイノベーションとなる。自らが現場の作業を学習するAIロボットは現場のヒト作業と融合共存できうる。各種センサー技術とデジタルネットワーク・AI融合によるスマートファクトリー化は、ものづくり生産性改革の鍵である。ICT建設機械・無人ダンプ運行とともにその稼働データ活用は景気動向指数にもなりうる。風力発電やプラント・インフラの遠隔状態監視・保安など単に製品のみならずMRO(メンテナンス、リペア、オペレーション)高付加価値化や販売・市場需給動向のデータAI分析と連動し設備稼働状況を判断するシステムなど様々なサプライチェーンに生産性革命を興している。戦後の日本経済を牽引してきたインフラ、プラントは老朽化が激しく、五感を駆使した現場熟練人材も少なくなり保安・未然の事故防止が喫緊の課題であり、暗黙知のデータAI化で補完することが求められている。日本の強みである長年のものづくりの経験で培ってきた多大な生産現場のデータやMROデータは潜在的知的資源であり、これをどう活かすかが生産性を高める鍵となる。日本はものづくり(自動車、電子部品、素材等)とともに底辺の広い中小企業ネットワーク、サプライチェーンの強みがあり、今まで蓄積された暗黙知を含め膨大なデータをうまく活用する余地は高い。コロナ渦での経験も踏まえ、テレワーク、スマート化の進展により労働生産性も向上し、より知的生産性向上にシフトした柔軟な働き方に変革することが重要である。
 
 
デジタル時代のSecurity, Privacy、Cross-border Enforcementのガバナンス構築
 一方、このようなデータが国境を超えるデジタル時代に相応しい、Security/ Privacy/Cross-border Enforcementのグローバルガバナンスは未熟である。
 
 OECD Growth Reportを取り纏めた同年2001年September11の米国同時多発テロ事件とサイバー攻撃は大きな転換期であった。もはやハッカーを雇ってサイバー攻撃に備えたり政府の国防や安全保障対応だけでは防げなくなった。OECDとしては米国からの要請も踏まえ、異例のAgainst Terrorismを掲げ、サイバー空間でのグローバル官民連携のガバナンス構築に大きく舵を切りユーザーを巻き込んだセキュリテイリテラシーを喚起し(2001 OECD セキュリテイガイドライン“Culture of Security”)、個人情報保護のガバナンス強化とともに国境を越えた詐欺的行為に対する消費者保護ガイドライン(Protecting Consumers from Fraudulent and Deceptive Commercial Practices Across Borders)等に取り組んだ。各国で重要インフラのセキュリテイ対策の強化が図られているが、最近のランサムウェア感染、制御システムへの攻撃やメモリ自体に不正プログラムが仕掛けられた事例など、さらにデジタル時代のグローバルなサプライチェーンを巻き込む脅威レベルに高まっている。一方、2013年の米国スノーデン事件は個人情報保護に関する国家監視の問題を喚起し、各国では欧州データ保護規制や中国のデータ監視とサイバーセキュリテイ法等利用制限の動きも強まっている。巨大な米系企業がデータ保護法や競争法に抵触するとして規制当局から訴えられるケースも多い。IoTセンサーデータの例として、データ共有の動きとともに自動走行にかかる膨大なデータをドライバーなどの行動履歴としてデータ保護規制で縛ろうとする欧州規制当局の動きに対して「プライバシー侵害には当たらないセンサーデータ」との業界の見解などデータ利活用の各国間の競争激化と調整の課題は増えている。セキュリテイと個人情報保護の両睨みの越境データ移動とサイバー攻撃への協力など国境を越えたEnforcementのガバナンス構築がICT/AIのグローバルな利活用に不可欠である。
 
 
次世代半導体へ競争力復活:垂直統合型からグローバル相互補完連携・サプライチェーン再構築
 先端技術の経済安全保障を踏まえたグローバルイノベーション連携については、半導体の競争力の変遷と先端半導体開発が関連している。AI・ビッグデータ解析・アルゴリズム、計算能力に半導体は不可欠であり、米中ハイテク貿易摩擦、中国の軍民融合先端技術開発などを背景に昨年経済安全保障推進法が成立し、経済安全保障を踏まえた半導体サプライチェーンの見直しが課題となっている。
 
 日本の半導体は1980年代に世界を席巻した(世界シェア5割超)が、日米半導体摩擦による日米半導体協定(1986年)の輸出規制とともにメモリー中心の内向き垂直統合型モデルにとどまり先端ロジック分野で後れをとった。その間に、米国は設計に集中しファブレスのグローバル(水平)連携を進め復活し、一方台湾と韓国がファウンドリを強化し工程間分業によるグローバル連携を加速した。地政学的リスクとして焦点となる台湾TSMCは1987年に半導体国家プロジェクトをベースに世界初のウェーハー加工専業企業で創業したが米国留学・就職理工系人材の流入・人的繋がりと装置メーカーとの協業によるグローバル相互補完連携を進め、受託製造事業に集中した。2000年頃から微細化で日米先進企業に追いつき、顧客サービスを充実させ(Market-In)、分業型が優勢なロジックICのプロセス技術を磨き2010年代に急成長し微細加工技術のフロントランナーになった(2020年市場シェア5割超)。30年間のグローバル相互補完連携の差異とデジタル化の成長市場を見据えた顧客Market-inの戦略の差異は大きい。
 
 現状は、設計は米国が独り勝ち、装置は米日欧主導、ウエハ製造能力は台韓に次いで日本は第3位であり、日本は製造装置・材料に強みを有するが、先端ロジック製造は海外ファウンドリに依存している。次世代半導体開発(Beyond 2ナノ)には、大規模データ利用拡大を背景に微細化に伴う3次元化や実装技術による高集積化・高機能化(低消費電力化含)の重要性が増しており、今後は、最先端デバイス開発・製造の巨大な投資含め関連技術の全てを一つの国がカバーすることは不可能であり、製造装置と材料の強みを活かして、ファウンドリー誘致連携・欧米の半導体研究開発拠点含め産学官の幅広いプレーヤーが参加しお互いに強みを相互補完するグローバル連携の再構築と顧客Market-Inへの転換が求められている。経済安全保障の観点を踏まえた、同盟国連携のサプライチェーン再構築が鍵となっている。
 
 
スタートアップ大国イスラエルの産学官軍連携によるグローバルイノベーション
(危機感→「教育・起業家精神」と「産学官軍連携体制」)
 スタートアップ大国のユダヤ人国家のイスラエルは人口約900万人の小国であるが、中東のシリコンバレーと呼ばれ、研究開発投資の対GDP比(5.4%)、人口一人当たりのベンチャー投資額、国民100万人当たりベンチャー企業数は世界最高で、毎年700社から1000社程起業の中から100社がエグジットし(株式公開及びM&A)GAFAをはじめ世界のグローバル企業約400社の研究開発のイノベーションのグローバル相互連携の拠点となっている。歴史的、地政学的に困難な状況(周辺をイスラム国家に囲まれ4度の中東戦争とアラブ諸国との紛争)と天然資源のない環境下で人的資源への投資を重視し技術を磨きゼロから一を生み出す「教育と起業家精神」とともに「産学官軍連携のイノベーションのエコシステム」を構築している。
 
 18歳で兵役に従事し国防軍がトップエリートを養成し、生死にかかわる厳しい兵役と実践経験でリーダーシップ、自主独立の精神、課題解決力を磨き、その優秀な人材が産み出した先端技術がスタートアップビジネスに直結している。先端技術を育てる特殊教育プログラム「タルピオット」は10万人強の候補からわずか50人を選抜する狭き門のエリート育成プログラムと言われており、大学と連携し最先端の数学、物理、コンピューターサイエンス・AI等特殊才能を磨いている。とくに8200国防部隊のサイバー諜報組織は、軍・国民をサイバー攻撃から守る実践経験を踏まえた金の卵起業家養成でも知られている。先鋭ハッカー人材でもありユニコーン含めシリコンバレー等での上場も多い。軍での危機感と粘り強く任務を遂行し若いリーダーシップ・責任の経験(上意下達ではない、規則に縛られない独創性)は自らの自信と起業家精神を育んでいる。現場課題解決型(Creativity)で厳しい訓練と実践を共有した仲間同士の相互連携の絆により信頼できる人的ネットワークは、その後のビジネスでも活かされている。
 
 教育は、学校でも家庭でも自分の頭で考え知恵を絞り、子供の頃から徹底的に質問し疑うWhy?が身についており、教師が生徒を教える一方通行ではなく、子供の好奇心を引き出して生徒自らが考え質問が多い教師が評価されるという。初等教育から英語教育、プログラミングをはじめ才能を伸ばす自由な選択とともに飛び級含め天才児を伸ばす教育が行われている。「挑戦することへの価値観、失敗を受け入れる寛容性、尖った人財を育てる」ことが起業家精神を育み、相対性原理等を提唱しそれまでの物理学の認識を根本から変えたアインシュタインをはじめ数多くのノーベル賞受賞者を輩出している。
 
 人材流動性は、優秀なユダヤ人材含め高学歴移民を受け入れ(90年代ロシアから100万人)、多様性と異質と向き合い世界中から集まる技術と頭脳がベンチャー人材になっている。
 
(グローバル市場指向 Market-Inの相互補完連携)
 国内市場が小さいために最初からグローバル市場におけるMarket-Inの出口を考え、グローバルパートナーとの相互補完連携を指向する。日本でよくみられる上意下達意思決定で決断が遅いのに比べて、スピード感がある行動力で「とりあえずやってみる、常識にとらわれない、(市場の出口を見据えながら)走りながらビジネスモデルを精査する」といった感じである。一方日本はものづくりの経験とその膨大な蓄積データとともにグローバルなものづくりサプライチェーンの強みがある。我が国としてはゼロから一を生み出す創造力と事業化へのグローバル連携はイスラエルから学びつつも、お互いの強みを相互補完することによる相乗効果は極めて大きいと考えられ、知的生産性向上にスタートアップ大国のイスラエルとの連携は最適と考えられる。
 
 日本とイスラエルの国交樹立70周年を迎え日本イスラエル商工会議所関西本部は本年2月にイスラエル(テルアビブ)で開催された世界の先端サイバーセキュリテイのイベント「サイバーテック」とスタートアップイベント(DLD Tel Aviv Innovation:世界のハイテク起業家が参集)に参加し、テルアビブ大学、シバ病院(中東最大の病院でAI-デジタルヘルスを先導)、テクニオン大学(ハイファRD拠点)等を訪問した。滞在中エルサレムでの銃撃戦が国際報道されたが、市内は至って平穏であり、市民にとって兵役経験含め国防軍は身近な存在である。ガサ地区等からイスラエル市街に向けて発射される砲弾を打ち落とす「アイアンドーム」の最先端の撃墜ミサイルやサイバー空間の防衛に見られるように国防軍エリートが産み出す軍先端技術のイノベーション、スタートアップビジネス含めその信頼は厚いものがある。サイバーテックにおいても、国防軍のサイバー攻撃・防御の精鋭の実践ニーズ(8200諜報部隊)からスタートアップしたサイバーセキュリテイ起業は多く(軍の外部侵入防止システムのCheck Point、CyberArk等)、講演では、首相自らが新たに同盟国連携のサイバードーム構想の推進を公表し、多くの8200部隊出身者がプレゼン、グローバル連携のコーデイネータとして活躍していた。面談した国防航空宇宙企業IAI(アイアンドームをはじめ先端防空システム開発主導)は、国防・インテリジェンスのサイバーセキュリテイ等実践経験を踏まえたサイバーソリューションのビジネスを展開しており(サイバードームの産学官軍連携を牽引)、とくに実践的なサイバーセキュリテイの人材育成プログラム、Train the Trainer Programの日本との連携を期待していた。
 
(国防軍エリート・大学教授が起業・ビジネスに直結)
 訪問したテルアビブ大学、テクニオン大学をはじめ7つの総合大学が起業・ビジネスに直結し、国防軍エリート・大学教授自らが起業し、その敗者復活経験含めベンチャーのファシリテーター役になっている。2017年インテルが大学教授のスタートアップ企業であるモービルアイを1兆7000億で買収し、その画像処理アルゴリズム等自動走行運転支援AI(軍の位置情報システム転用距離測定)等が注目されたように、大学と軍連携の先端技術を次々と市場に展開している。AI,自動走行、サイバセキュリテイリテイの起業は多く、最近ではコロナ渦で世界に先駆けワクチン接種等を進め(行動・接触)軍監視技術の転用含めコロナ関係含め健康医療ベンチャー起業も多い。全国民の医療健康データが電子データで蓄積されており、データのAI機械学習分析、遠隔地医療の取り組みが進んでいる。イノベーション庁からもデジテルヘルス分野の連携支援の説明があり中東最大のシバ病院では先端Medical-AIの取り組みを強化しており日本との連携について意見交換した。
 
(外資導入VC)
 歴史的地政学的困難な環境(危機感)において、先進的・実践的教育、起業家精神の要請、産学官軍連携イノベーションシステムとともに、外資誘導の官民ベンチャーキャピタル及びユダヤ系人脈の資金流入も起業促進の要因である。政府は90年代にスタートアップ立国を目指した支援策に取り組み、いち早く海外投資家を呼び込みイスラエル起業家への投資を目的に政府主導の官民ベンチャーキャピタル「ヨズマ・プログラム」を立ち上げ、起業初期段階から投資リスクを低く抑えるためリスク資金を供給し起業に挑戦することを推奨してきた(国外から資金を集めた民間スタートアップVC 60%対して政府が40%資金拠出し、投資が成功した場合政府出資分を5年後に安く買い取れるスキーム。ヨズマはヘブライ語でイニシアテイヴという意味)。ICT技術革新の波を活かした、Google創業者、Facebook創業者、Apple会長、Microsoft前CEO等ユダヤ系の経営者は多く、ユダヤ系人脈、資金ネットワークにより外資を導入し米国シリコンバレー上場との結びつきも深い。
 
 
2025関西万博はDX,GXへのグローバルイノベーションの機会
 2025年関西万博は「多様な価値観を持った世界の人々との共創により地球的課題に取り組む未来社会の実験場」であり、水素社会のネットワーク、次世代モビリテイなどが始動し、DX,水素社会GXを見据えグローバルイノベーションに向けての大きな転換期である。日本を取り巻く地政学的リスクの高まり、経済安全保障、インテリジェンス機能含めた防衛力など危機感の高まりは新たな産学官軍連携のイノベーションを(防衛ビジネスがスタートアップとともに民間成長ビジネスに直結し、精鋭技術エリート育成含め)再構築する絶好の機会である(現在のインターネットも米国防総省と大学連携のイノベーションである)。イスラエルのゼロから一を産み出す創造力とEntrepreneurshipとの連携含め知的生産性の成長加速が期待される。
経済学部 客員教授 松尾隆之 
(元OECD科学技術産業局長、日本イスラエル商工会議所関西本部理事長)