災害時の連絡と再会のための「ソナエ」
もう一点、私が特に力を入れてお伝えしているのが、子育て世代の皆様に向けた「災害時の連絡と再会方法への事前検討」と「盲目的な引き渡しの危険」についてである。14時46分に発生した東日本大震災では多くの生徒が迎えに来た保護者に引き渡され、その直後に命を落とすことになった。
文部科学省は東日本大震災から1年半後の平成25(2013)年9月には全国の学校のソナエ強化の為「学校防災マニュアル(地震・津波災害編)作成の手引き」を作成しており、ここでも、引き渡しについて「地震の規模や、被災状況により、児童生徒等を下校させるか、学校に待機させ保護者に引き渡すかなどの判断をする必要があります。津波など限られた時間での対応が迫られる場合には、保護者に対しても災害に関する情報を提供し、児童生徒等を引き渡さず、保護者と共に学校に留まることや避難行動を促すなどの対応も必要です。」と明記している。全国の学校は、この手引きを参考に、引き渡し訓練を含む避難訓練も記載された「学校防災マニュアル」を整備していると思われるが、多忙を極める教育現場にどこまで被災地の経験が浸透しているだろうか。ともすると引き渡し訓練によって、適時適切に逃げることよりも引き渡すことを優先させてしまってはいないだろうか。
平時から地震発生後の津波到達時刻や浸水深さを理解していれば「間違った引き渡し」は必ず防げる。自分たちの地域は地震発生から何分で津波が到達し、浸水深はどの程度が見込まれているのか、ここ数年で精度を上げている気象庁からの情報や行政のハザード情報などを最大限活用した「ソナエ」に繋げたい。
終わりに
発災から9年に渡り被災自治体での業務に携わらせて頂いた。最初に参画した岩手県大槌町では職員の3割を超えた方々が命を落とされ、助かった職員も一度は自身が津波に飲まれた方、ご家族を亡くされた方など、言葉にできない悲しみを抱いて業務に当たられていた。災害で命を失うことの意味を身をもって体験すると、私が伝えるべきは何をおいても「命を守ること」だ。
新型コロナ感染症の経験を経て、災害リスクは内容・頻度ともに「分散避難」をあたりまえとする水準にある。今命ある私達の災害への「ソナエの強化」は、過去の災害における「もっと生きたかった命」と引きかえの営みである。本稿が一人一人の命を守る行動に貢献することを願い結びとする。
経済学部 客員教授 末村祐子
(大阪市住之江区長 前岩手県岩泉町副町長・復興庁復興推進官)