前学長・野風草だより

No.900

No.900 2019年3月16日(土)

900回記念 卒業生に贈る言葉

 野風草だよりも回を重ねて、900回となりました。これまでお読みいただいた皆さまに感謝いたします。今回は、私にとって最後となる卒業式の式辞を紹介いたします。

「大経大PRIDE・FAMILY」
 本日は、皆さん、卒業、修了、おめでとうございます。ご臨席いただきました保護者の皆さまはじめ、ご関係の方々にも心からお慶び申し上げます。
 1949年に新制の大学となった大阪経済大学の前身は、1932年に創立された浪華高等商業学校であり、その後1935年に昭和高等商業学校として再建されました。その初代校長となった黒正巌博士以来、「自由と融和」を建学の精神として受け継いできました。今年で創立87年となり、2032年には創立100周年を迎えます。本日卒業・修了する1774名の皆さんを加えて、卒業・修了生は9万9千名弱になりました。来年度には10万名を越えます。本日から、皆さんもその仲間です。どうか皆さん、これからの社会人生活において、大経大卒業生としての誇り、「大経大PRIDE」をもって、過ごしてください。
 皆さん、大経大での生活に満足されたでしょうか。私たち教職員は「つながる力。No.1」を掲げて、皆さんと接してきました。満足して卒業・修了していただければ、大変うれしいです。私たちは「大経大FAMILY」として、これまでもつながってきましたが、皆さんが卒業されてからも、つながりを続けていきたいと願っています。是非皆さんの母校を愛し続けてほしいと思います。

私の研究をふりかえって、4つのポイント
 本日皆さんは大阪経済大学を卒業されるわけですが、私も卒業式の式辞を述べるのはこれで最後となります。3月末をもって学長を卒業いたします。平成の最後ではありませんが、最後ですので、少し私の研究についてお話させて下さい。私が本格的な農業史研究を始めたのは大学院の時からですので、もう40年以上がたちます。この3月下旬には、4冊目の単著を出します。私は江戸時代の農書、奈良県の中世末から現在までの農業史、そして『日本農法の水脈』と『日本農法の天道』のような日本農業の哲学と、3つのテーマで研究を続けてきました。今回の『日本農法の心土』はこの3つのテーマを絡み合わせながら、40年間の研究のまとめ、総括として、日本農業の歴史と哲学、これからの展望を述べたものです。
 具体的な内容は省略して、私が研究する上で心がけてきたこと、大切にしてきたことを4つにまとめてみました。私は古いタイプの研究者ですので、今の若い人たちとは違うかもしれません。それでもこれから社会人として活躍される皆さんにも少しは役立つのではないかと思います。第1に、オリジナルであること。研究の第1条件は何といっても独創性、その人が独自に開発した考え方、概念装置があるかどうかです。外国の研究を翻訳しただけ、外国産の理論を日本の場合に当てはめただけ、日本の誰か有名な先生の理論で事例分析しただけ、こんなのはオリジナルな研究とは言えません。私はこれまでもそして今回の本でも、幾つかの新しい手作りの概念を提案し、しかも日常生活で使う日本語、和語で表現しようと悪戦苦闘してきました。
 皆さんもこれから社会で働く時、ああこれは君の個性がよく出ていて面白いね、あれ今まで誰も気がつかなかったところに目をつけて、ユニークだねと言われるようにオリジナルな視点を磨いてほしいと思います。ここに1800名ほどの卒業生・修了生がいますが、みんな違います。個性があります。それをこれからの社会人生活で、画一化されたマニュアルで個性を潰さないようにしていただきたいと思います。

 第2には、ロジカルです。学術研究は絶対に論理的でなければなりません。他人様に読んでもらうのですから、論理が滅茶苦茶では説得できません。もちろん論理にも幾つもバリエーションがあります。私は大学院、オーバードクターの時代に指導していただいた恩師に徹底的にこの論理性を鍛えられました。論理展開にちょっとした飛躍があると、これはどういうことかと1時間も2時間もいじめ抜かれました。
 皆さんもこれから会社のなかで営業報告をしたり、取引先と商品の説明をしたりすることが日常的にあると思います。その時、論理、筋が通っていなければ、相手を説得することは出来ないでしょう。自己中の話では、誰も相手にしてくれません。しかし、世の中は声の大きい自己中の人が威張っています。平気でウソもつきます。ポストやカネを求めて彼らに媚びへつらう風見鶏が一杯います。皆さん、筋を通すことは難しいですが、どうされますか。

 第3には、リアルです。研究は常に現場、現実に根ざしていなければなりません。私の場合は農業史研究でしたので、一つは歴史史料に必ず依拠することです。しかもこちらの勝手な理屈、解釈で史料を切り取る演繹的な方法ではなく、膨大な史料の山から自ずと浮かび上がってくるものをつかみ取る帰納的な方法が、大切です。私は別の恩師の一人に、「あんたみたいなもんでも、100本実証論文を書いたら、何とか1人前になれるよ」と指導を受けました。仮に25歳から論文を書き始めて70歳まで書いたとしても、45年間ですので1年に2本以上書かないといけないのです。恩師はその言葉どおり100本以上書かれましたが、私は情けないけど40本くらいしか書けませんでした。
 そしてもう一つのリアルは、現場の農家を調査、フィールドワークして何が問題なのかを発見することです。問題は自分の頭の中や研究史の中にあるのではなく、必ず現場の農家の日常的な営みの中に隠されているのです。そのために私は冬の囲炉裏端で農家とどぶろくを飲み明かし、炎天下の田んぼや畑で農家のお話を聞いてきました。全国の農業の名人、中国・韓国の農村、そしてわずかですが東南アジア・西アジアの農村を歩き回りました。この現場感覚がなければ生きた研究は出来ません。自己満足、研究のための研究に終わります。
 皆さん、営業は足で稼げとよく言いますよね。相手と何回も何回も話していく。その話の中から、次へのステップのヒントをいただくということでしょうか。

 第4には、アイデアル、理想、夢、希望を語るものでなければなりません。私はまた別の恩師の一人に、「德永君、僕のかばん持ちなんかしなくていいんだよ。流行に惑わされんと、いつも農家の方を向いて研究していくんだよ」と、いつも言われていました。今現在農業に励んでいる農家たちに希望を語ること、これからの方向性を示唆することをいつも念頭において研究をしてきました。今回の本は、その総括です。フランスの詩人ルイ・アラゴンの言葉に、「教えるとは希望を語ること、学ぶとは誠実を胸に刻むこと」というのがありますが、その心は同じでしょう。

 私は以上の4つ、オリジナル、ロジカル、リアル、アイデアルを目標に研究をしてきました。重要性はオリジナルが1番であり、段々下がります。アイデアルは相当年季を積まないと出てきません。時代に流れに便乗した社会の評価や、大学内の甘っちょろい恣意的な政治的な評価ではなく、この4つの達成こそが学者としてのミッション、使命と思ってきました。でなければ、10年、100年の歴史の検証に耐える研究にはなりません。もちろん本学には世界で日本で著名な研究者がたくさんいます。私はまだまだ完璧ではありません。今回の本でもとくにロジカルな面でつめきれていません。あと数年かけて、ライフワークとして、働く農家の応援歌になるような日本農業の哲学を書き上げたいと願っています。お酒さえ控えれば、大丈夫だと思っています。
 この4つのことは、もちろん学者だけではありません。皆さんには企業人としてプロフェッショナルの道、はたまた芸術家、職人、アスリートなど様々な道があります。「なりはひの道は かはれどさして行く 高嶺の月は一つなりけり」。仕事の道はいろいろとあっても、目指すべき目標、ゴールは一つだよという意味です。これは初代学長黒正巌博士の歌です。

「つながる」
 研究するうえで最後に思うのは、先生、先輩、仲間の大切さです。上の4つの単語は英語で、L、ルで終わります。「る」の語呂あわせで、ここでは「つながる」と表現したいと思います。本学の「つながる力。No.1」です。私は、大学院生の1977年の25歳から現在の66歳まで40年以上、関西農業史研究会という在野の研究会のお世話をしてきました。毎月1回の例会をして、この3月で376回を数えます。学会とは違い、大学の教員だけでなく農業史研究が好きなだけの者の集まりです。来る者は拒まず去る者は追わずで、やってきました。日本の農業史研究者でこの会を知らない人はもぐりです。これまでにおそらく500人以上の研究者が入ったり出たりしてきました。そこで私は4人の恩師に薫陶を受け、多くの先輩・仲間と切磋琢磨し研鑽を積んできました。私がこの歳まで研究を継続できたのは、この研究会があったからこそです。まさに「研学修道 学問を研究、研鑽して、道を道理を修めよ」です。黒正博士はそう言われました。私の2人の恩師は、黒正博士の弟子になりますから、私は黒正博士の孫弟子に当たります。こうして黒正博士が初代学長を務めた大阪経済大学で卒業生の皆さんに、黒正博士の教えを伝えられることは大きな喜びです。
 大学での4年間で皆さんは、たくさんの仲間、一生つきあえる親友、そして先輩、恩師にであった事と思います。ぜひ皆さん、つながる事の大切さを今後とも大事にしていただきたいと思います。

「道理は天地を貫く」
 先ほどから紹介している黒正巌博士ですが、本学の前身である戦前の昭和高等商業学校の校長先生で、戦後1949年に本学の初代学長を務めました。黒正巌博士の言葉に「道理貫天地」というのがあります。これは世界で、日本でオンリーワンの大経大オリジナルの言葉です。各教室で卒業証書を授与される時に、黒正博士のチラシが入っています。是非、手元にずっと置いていてほしいと思います。
 道理とは何か、人の生きる道、理。いかに生きるか、いかに死ぬるか。古今東西変わらないものです。道理は、世界をそして目に見えない天地をも貫いているんだ、と黒正博士は言われたのです。私は「おかげさま」、「おたがいさま」だと考えています。各人各様の解釈でかまいません。正解はありません。「道理は天地を貫く」、大経大でしか学べないこの言葉を、頭の片隅でもいいから覚えていてほしいのです。必ず、皆さんのこれからの人生を支えてくれる芯柱になってくれると思います。「道理貫天地」。

黒正イズムの4つの眼
 黒正博士は当時の多くの学生、教職員から慕われ、その言動は「黒正イズム」として記憶されてきました。その黒正イズムは次の4つの眼にまとめられると思います。
鳥の眼:鳥が大空から大地を眺めるように、広く空間認識のもと、国際的なグローバルな視野をもっていました。
虫の眼:虫が地面をはいつくばって動きまわるように、地道に現場に即して考える姿勢を貫きました。
魚の眼:魚が河や海で流れを読みながら水中を自由に泳ぎまわるように、永いスパンで時代の流れを読む先見性を持ち合わせていました。
最後にもう一つ強調したいのが、こころの眼:目に見えるものだけでなく、こころ(情・心)で感じるものへの気づきです。和を尊び、利他の精神、感謝の心を大切にしました。先ほど述べた私の研究の4つ、5つの視点は、この黒正イズムを受け継いだものです。
 こうした4つの眼をもった黒正イズムは本学の芯柱であり、黒正イズムに基づく学生一人ひとりに気遣い心配りをした、きめ細かい教育こそが、本学の教育の特徴です。いつも皆さんに言っていた「つながる力」です。黒正イズムの継承・発展こそが、2032年の100周年、さらには200周年の礎です。皆さん、この黒正イズムの4つの眼を大切にして、これからの社会人生活を送ってください。
 あらためて卒業生、修了生の皆さん、おめでとうございます。以上で、皆さんへのお祝いのメッセージといたします。ご清聴ありがとうございました。