林怡蓉

インターネット時代における テレビメディアの新たな役割を探究

ネット時代だからこそテレビメディアが重要

 私の専門分野はメディア社会学で、「民主主義社会におけるメディアと社会的コミュニケーション」について研究しています。社会的コミュニケーションとは、メディアを媒介とした人々の交流や議論、それらによる思考の変化のこと。例えば、私の母国・台湾のテレビには、番組のなかにコールインというコーナーがあり、生放送中に視聴者は自分の政治的・社会的意見を述べることができます。日本のテレビには、そのような番組はありません。それは、欧米のような社会的責任を基盤とした自主規制ではなく、政権に対する批判的意見が寄せられた場合の政治的圧力などを怖れた、他律的な自主規制によるものではないかと思います。しかしそれでは、何かの問題について社会が議論する機会が失われ、社会的コミュニケーションの芽が摘まれてしまいます。

 インターネット時代と言われていますが、毎日、日本人の9割以上の人が何らかの形でテレビを見ており、テレビは人々が情報を共有するために重要な役割を持っています。SNSなどのインターネットメディアは、沢山の人が情報を出し合うためのポテンシャルは高いですが、異なる価値観の人が排除される閉鎖性も見受けられます。そのようなネット社会だからこそ、多様な人たちが双方向でコミュニケーションできるテレビメディアは、自らの可能性を放棄せず、民主主義社会にふさわしい社会的コミュニケーションの制度を作り上げていく必要があると思います。

研究にも授業にも「何かおかしい」という違和感が大切

 私は大学院時代に日本のメディア研究をスタートさせ、いろいろな経験をしていくなかで感じた、「何かおかしい」という違和感を大切に研究を深化させてきました。本学では「メディア・コミュニケーション論」「現代社会の社会学」 「マスコミュニケーション論」「情報メディア論」などの授業を担当していますが、学生にも、そのような違和感を大切にしてほしいと思っています。また社会では自分自身の考えを持っていなければ、与えられた情報をそのまま受け入れてしまいます。自分なりに考える力を付けられるスタイルの授業を心がけているつもりです。