未来志向、現場のための管理会計
私は管理会計に関する研究を行っています。企業の会計には、財務会計と管理会計の2種類があります。財務会計は、企業活動の成果を外部の利害関係者に向けて発表するという性質のもので、基本的にはオープンな情報であり、投資家が意思決定するために十分な正確性や他社との比較可能性が要求されます。一方管理会計は、いわば企業の家計簿のようなものだとイメージしてもらえればいいと思いますが、企業の内部の人のためにあるものです。社外の人の目に触れることは少なく、正確性や比較可能性よりは情報を利用する経営者や現場の人にとっての分かりやすさ、使い勝手の良さが優先されています。また決まった形式はなく、読む人は誰か、つまり経営者か、上層部までか、現場の担当者かなどが意識される点も大きな特徴です。
財務会計が扱うのは過去の成果であるのに対し、管理会計は企業がこれからどうしようかと考える時に必要とされる、未来志向の会計であるといえます。企業が管理会計を導入するときには、何らかのきっかけがあります。一般家庭でも、今までのどんぶり勘定をやめて家計簿で家計を管理しようと考えるようになるには、きっかけがあるはずです。例えば、一人暮らしを始めたとか、お金に余裕がなくなったとかいう場合です。企業の場合も同様で、規模を拡大したいとか、新しくメンバーが加わったなどということがきっかけで管理会計が導入され、変化していくことが多いのです。
このように管理会計が、企業の「これから」を考える時に威力を発揮することはしばしばあります。私はいくつかの企業を対象に調査研究を行い、管理会計が変化していくプロセスを、その企業が置かれている環境や経営戦略、人の意識の変化などとの関わりを考えながら明らかにしようとしています。