前学長・野風草だより

No.896

No.896 2019年1月7日(月)

新年のご挨拶

 右の写真は、北タイでキリスト教の宣教をされている、私のゼミの卒業生の奥様が2018年11月1日に撮影されたものです。タイのチェンライ県ウィエンケン郡にあるパータン山の山頂から、ラオスの東の山々に漂う雲海と日の出です。ちょうどこの写真に写っている雲海の下界には、母なる川メコン川が雄大に流れています。私は、長年にわたり困難な地で宣教を続けている額賀潤二・ひとみご夫妻を応援し続けています。
 貝の写真は、緋扇貝(ひおうぎ貝)です。何とも美しいカラフルな貝です。年末に故郷の松山から贈ってもらいました。南予の由良半島で養殖されていて、愛南町の特産品となっています。生で食べて良し、焼いて良し、蒸して良し、揚げて良し、本当に美味しいです。一番美味しかったのは、レンジで簡単に出来た「酒蒸し」でした。盛っている器は、故郷の砥部焼きの尺皿です。

 以下は、新年の互礼会でお話した内容です。
 皆さま、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
 さて、皆さまもご存知のように、本年3月末でもって、私は学長を退任いたします。年頭に当たり、3期8年半お世話になった教職員の皆さまに心から感謝いたします。ありがとうございました。
 次期学長には、現在学長補佐をしていただいている山本俊一郎経済学部教授が内定しています。おそらく全国最年少の学長になるかと思います。副学長には小谷融現副学長、学長補佐には山本正現学長補佐、そして新たに遠原智文経営学部准教授、相原正道人間科学部教授を推薦し、全学的な学長執行部体制を確立いたしました。これまで私が行ってきた大学改革の路線を受け継ぐとともに、若い人たちによる大胆な改革がすすめられていくことと期待しています。どうか皆さま、山本新体制へのご協力、ご支援をよろしくお願いいたします。

 この8年間、ありがたいことに受験志願者数は6年連続で伸び、2018年度入試では21,929名と史上最高を実現しています。この3月の卒業率は87.5%、4年で卒業するストレート卒業率は91.3%で、2008年の72.7%から10年間連続して伸び続けて20%上がり、これまた史上最高です。就職率は、90%以上あったものが2009年のリーマンショックで一時80%まで落ち込みましたが、昨年度では就職希望者に対する就職率Aは93.0%まで回復しました。これらすべて、教職員の皆さまが日頃より、学生たちにきめ細かい教育を行っていただいたおかげです。本当にありがとうございました。私は学長就任以来一貫して、「ゼミの大経大、マナーの大経大、就職の大経大」を言い続け、「そっと手を添え、じっと待つ」教育をすすめてきました。今や、大学の内外で、高校現場で、保護者の皆さまから、採用の企業様から、「大経大スタイル」として高く評価されるまでになりました。
 しかし、上がれば下がるが世の常です。しかも、私立大学を取り巻く状況は厳しいものがあります。つい最近、東京の医大の入試などをふまえて、文科省はガバナンスの強化をうたっています。さらには霞ヶ関界隈から、全学的な教育の質保証、学修成果の可視化と情報の公表がしきりに言われるようになっています。高等教育の無償化の認定に向けた対応、2023年の第3サイクルの認証評価受審への準備、私学共済事業団の補助金申請への対応など、やるべき課題は山積みです。
 この間、私は学長として学長執行部や事務局長室、関係部署の皆さまのご協力を得て、教授会の意見も拝聴しながら、委員会の統廃合を皮切りに、全学的な教育の質保証を実現するための全学内部質保証推進会議の設置、スポーツ文化センターの設置、教育・学修支援センターの設置、新たな研究費の設置などの改革を実現してきました。中小企業診断士登録要請課程を新設しましが、おかげさまで予想以上に応募は順調です。さらには大学にとって柱となるべき2032年に向けての「大阪経済大学100周年ビジョン2032」を決定し、現在2019年度から2023年度までの、90周年をはさんだ5ヵ年の新第一次中期計画の策定を進めています。
 私にはまだ任期が3か月残されています。普通はレームダック状態になり、死に体になるものですが、私は最後までやるべき課題をやり遂げたいと思っています。教員活動評価制度の改革、助教制度の導入、海外留学制度に伴う英語での講義などの義務化、スポーツAO入試の改革などです。

 私は、できる限り教職員の皆さまのご意見をお聞きしながら、大学改革をすすめてきたつもりです。教授会の意見聴取を何度も行い、参考になるご意見は取り込み修正も図ってきました。参考にならない意見、反対のための反対意見など、いろいろありましたし、もっと学長のリーダーシップをと言う方々もいましたが、私は根気強くお聞きしてきました。私は学長の独断専行というのは、あかんと思います。大経大には大経大なりの伝統とやり方があり、教職員の皆さまのご意見を聞きながらすすめていくことが大事だと思います。オーナー大学でよくあるようなスタイルは、本学には馴染みません。
 ただし、100万円の授業料を払っていただく保護者の方々のおかけで私たちの生活が成り立っていることへの感謝の気持ちを忘れてはなりません。幸い、このあと2015~2017年度の教員の活動に対して、研究上・教育上特別な功績があった3学部の3名の教員に対して、初めてのベストティーチャー賞を授与いたします。ありがたいことです。私はこの間、ものすごく我慢強くなりました。いろいろなことがありました。この間一番成長したのは、我慢、この事かと思います。
 山本新体制ではつまんない争いは無用にしていただき、大胆に改革を進めていって欲しいです。大同を捨てて小異にこだわるのではなく、小異を捨てて大同につく、全学的な改革を実現していただくことを、重ねて皆さまにお願い申し上げます。
 新年にあたり、この一年の基本方向を述べるところですが、これは、100周年ビジョン2032、2019年度からの2023年度までの新第一次中期基本計画で策定されていくところです。さらには2019年度の事業計画も策定されていきます。山本新体制では、とくに定員管理の厳格化のもとで、2022年度に向けて、学部・学科の再編や入学定員の見直しなどが大きな検討課題になるかと思います。現在、教育体制検討委員会で議論を重ねています。「生き続ける学びを創発する場となり、商都大阪から、社会に貢献する“人財”を輩出する」、これが私たちの100周年に向けての新たなミッションです。是非、教職員が協力して、ミッションを果たすために努力をしていこうではありませんか。

 ここで一つ思い出話をさせてください。私の恩師の一人は、京都大学人文科学研究所の飯沼二郎先生でした。1980年4月、九州大学で開かれた日本農業経済学会のシンポジウムの時、先生は会場から、「日本農業の近代化は、大規模化ではなく、日本の伝統に基づいて行われなければならない。」と、発言されました。会場からは、またかという失笑がもれ、無視されてしまいました。また、先生の恩師と尊敬されていた東京大学教授・東畑精一の「単なる業主論」を批判した論文を『農業経済研究』に投稿し拒否されて、ついに学会をお止めになられました。
 30年も40年も前のことですが、夜8時ころ河原町三条の駸々堂書店(今はない)でリュックを背負った先生にお会いしました。「どうしたんですか?」とお聞きすると、朝鮮関係の「出来たばかりの雑誌を置いてくれるように、頼んでいるんだ。」と言われました。また、別の日の夜のこと。四条河原町の高島屋の前で、韓国の金大中の拉致事件問題で日本政府への抗議のハンガーストライキを何人かとされておりました。この時は、さすがにお声をかけることが出来ませんでした。「1000万人と雖も、吾往かん」、学者とはこのような生き方をするものだと思い知らされました。
 飯沼先生は私に、「德永君、僕のかばん持ちなんかしなくていいんだよ。流行に惑わされんと、いつも農家の方を向いて研究していくんだよ」と、いつもにやさしく言われていました。私は肝に銘じて、研究をしてきたつもりです。この3月には4冊目の単著を出版します。教育では、学生と真正面から向き合うということでしょう。学長在任中も、専門ゼミと大阪経済大学の歴史と黒正巌の新入生特殊講義は続けてきました。

 飯沼先生は、戦前の京都大学農学部農史講座初代教授である黒正巌博士のお弟子さんです。ですから私は、黒正博士の孫弟子に当たります。黒正博士は当時の多くの学生、教職員から慕われ、その言動は「黒正イズム」として記憶されてきました。その黒正イズムは次の4つの眼にまとめられると、私は考えています。鳥の眼:鳥が大空から大地を眺めるように、広く空間認識のもと、国際的な視野をもっていました。たとえば戦前において、敵性言語であった英語を推奨したのは、今後の世界を見据えていたからでしょう。虫の眼:虫が地面をはいつくばって動きまわるように、地道に現場に即して考える実証的な姿勢を貫きました。身近な学生たちを愛し、日本文化の伝統を尊重しました。魚の眼:魚が河や海で流れを読みながら水中を自由に泳ぎまわるように、永いスパンで時代の流れを読む先見性を持ち合わせていました。1930年代日本での社会経済史学の樹立に貢献し、いち早くマックス・ウェーバーを日本に紹介しました。最後にもう一つ強調したいのが、こころの眼:目に見えるものだけでなく、こころ(情・心)で感じるものへの気づきです。和を尊び、利他の精神、感謝の心を大切にしました。私は黒正博士の孫弟子として黒正イズムを受け継ぎ、再び本学に根付かせようと努力してきました。
 建学の精神である「自由と融和」、教育理念である「人間的実学」とともに、4つの眼をもった黒正イズムは本学の芯柱であり、黒正イズムに基づく学生一人ひとりに気遣い心配りをした、きめ細かい教育こそが、本学の教育の特徴です。「道理は天地を貫く」、「研学修道」、黒正イズムの継承・発展こそが、2032年の100周年、さらには200周年の礎です。新年にあたり、このことを強調して、ご挨拶とさせていただきます。
 最後に、この8年半の学長在任中、お世話になった教職員の皆さま、重ねて御礼申し上げます。ありがとうございました。