野村国彦

「ゆらぎ」から目をそむけずに

人間の動きに同じ動きは二度とない

野球中継でピッチャーの投球について、「今日は調子がいいですね」というコメントをよく聞きます。一流投手でも、毎回、同じようには投げられません。調子がいい日も、悪い日もあります。では、「調子」って何でしょう?

人間はロボットのように目標に対して正確に一定の力を発揮することができません。じっとまっすぐ立っているつもりでも、プラスマイナス1、2cmの範囲の中で、絶えず身体は動いています。微妙にゆらいでいるのです。何か物をつかもうとしても、同じ軌道、速度で手を動かすことは決してありません。これもまた、ゆらぎです。

決して同じ動きをしていなくても、自分では同じように動かしている感覚を持ち、「ゆらぎ」に気づくことはありません。それはなぜかというと、分かっているつもりになることで、安心して生きていけるのではないかと思います。不安がらずに生きていくためのテクニックなのかもしれません。しかし、そのゆらぎこそが、人間というものを理解するうえで、大事です。