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【実施報告】創立90周年記念講演会 第2回「サステナビリティからリジェネレーションへ」

2022年11月17日(木)

産廃処理業界をリードする経営者が描く循環型社会

2022年9月に90周年を迎えた大阪経済大学では、これを記念して、「公共共創社会へ~VUCAの時代~」をテーマにした講演会を5回にわたって開催。Society 5.0やSDGsの実現、成長と分配の好循環、地球環境の課題をテーマに社会課題の解決に取り組む専門家・企業家を招聘して議論を進めていきます。
第2回目にお迎えした講師は、石坂産業株式会社 代表取締役 石坂典子氏です。テーマは「サステナビリティからリジェネレーションへ」。当日の模様をご紹介します。

プロフィール】
石坂典子氏
米国の大学留学から帰国後、父親が創業した石坂産業に入社。2002年取締役社長に就任し、大胆な改革で業界のイメージを払拭。2020年からは新たなビジョン「Zero Waste Design」を掲げ、サステナブルフィールド「三富今昔村」での環境教育プログラムなどを展開。プラントの見学者、フィールドの利用者は年間6万人にものぼる。「KAIKA Award2019」「2020年度日本経営品質賞」「2021年企業広報経営者賞」受賞歴多数。
 
 
誰もやりたがらない仕事。けれど、誰かがやらなくてはならない仕事
 
第1回講演会に続き、石坂氏の招聘には本学出身の企業経営者が組織する大阪経済大学大樟春秋会にご協力いただきました。会場には、その大樟春秋会の方々、一般の皆さま、「共通特殊講義」の一環として聴講する学生など多くの方にご来場いただきました。
 
大きな拍手の中、登壇された石坂氏はまず父親が創業した石坂産業の社長に30歳で就任した経緯を振り返りました。建設廃棄物の中間処理業をはじめとする自社の事業に、社会的意義のある仕事と誇りを持って入社したものの「産業廃棄物処理業に対する世間のイメージは良くありませんでした」と石坂氏。さらに当時、「埼玉県産の農作物に高濃度のダイオキシンが含まれている」という誤った報道により、ゴミを焼却処理する業者が汚染源だと風評被害に直面したそう。「会社は連日連夜クレームとバッシングの嵐。それでも、この仕事は誰かがやらなければいけない。人びとや社会の役に立ち、会社と社員を守りたい」という父の揺るぎない思いと、どんなに寒い日も暑い日も、土砂降りの雨の中でも黙々と作業を行うスタッフの姿に心を打たれた石坂氏。「私が産業廃棄物処理業へのイメージを変える」と社長継承を直訴しました。
 
就任後すぐに、焼却炉の廃止と廃棄物の再資源化への移行、それに伴う全天候型プラントの建設を断行。「焼却処理ではどうしても汚染物質が排出されてしまいます。しかし、燃焼ではない適切な処理や加工を行えば、汚染物質を排出せずに再生化や再資源化、ゴミの減量化が可能。地球環境保全にもつながります」と石坂氏。プラント内に一般の見学コースを設置して、以前とはまったく異なる再生型プラントであることもアピールしていきます。この“見える化”によって、産業廃棄物処理業が環境汚染の元凶ではなく、社会や暮らしに不可欠な存在であることが伝わり、批判が理解へと変化。また、職場環境の改善と世間の理解向上により、「スタッフのモチベーションや仕事への誇りが高まり、会社全体が活性化していったこともうれしかったです」と石坂氏は語ります。
 
数々の改革と並行して、石坂産業の創業の地であり、プラントを構える埼玉県三芳町の「里山」の保護にも着手します。三芳町は江戸時代に開墾された歴史的にも価値がある里山が広がり、長く継承されてきました。しかし、時代とともに里山は放置され、ゴミが不法投棄されるようになってしまったのです。この事態に心を痛めた石坂氏はスタッフと共に、周辺のゴミ拾いや里山不法投棄物の処理などをボランティアで開始。「5年ほど経ったあたりから、地域の方々が協力してくださるようになってきました」と言います。
 
それから約20年。荒れ放題だった里山は見事に甦り、現在、石坂産業では東京ドーム4個分の里山を管理。一部を「三富今昔村」として開放し、生物多様性を知るガイドウォーク、食育体験などを埼玉県で唯一の「体験の機会の場」の認定のもとに展開しています。また、プラントには学校の社会見学、大学・企業との共同研究、国内外の同業者、自治体などの視察を合わせて、年間1万人以上が訪れ、産業廃棄物処理への認知・理解を深めています。
 
 
ゴミは何度でもリジェネレーション=再生できる貴重な「資源」
 
いわゆる3K(きつい、汚い、危険)仕事、嫌われる企業から、誇りある仕事、地域から愛される企業へと変換を遂げた石坂産業。さらに、石坂氏は大量生産・大量消費社会から循環型社会の実現に向けて、「Zero Waste Design」というビジョンを掲げ、さまざまな取り組みに注力しています。
 
「世界の廃棄物発生量は2010年の約104.7億トンから、2025年には約148.7億トン、2050年には320 億トンにも達すると推測されています。とにかく産業廃棄物を削減しなければならないのですが、なかなか進んでいないのが現状。生産のスピードや技術開発に、リサイクルが追いついていないことが原因です」と石坂氏。例えば、環境保全に役立つ製品の中には、老朽化が進むと廃棄や再生が難しいものがあり、対策が急務になっていることを指摘しました。「2015年9月に国連総会で採択されたSDGsの17の目標に一つに『つくる責任 つかう責任』がありますが、開発設計段階から再生・循環までを見越して物を生み出すことが企業等の責任ではないでしょうか」という石坂氏に会場の多くの人が共感していました。
 
すべてのゴミをまったくゼロにすることは不可能です。しかし、ゴミがゴミではなく、すべてが再生可能な「資源」であるという概念を社会に定着させていく。そして、再生の循環をあたりまえにしていく。その最前線に立つのが産業廃棄物処理業であり、石坂産業の使命であるという石坂氏。「産業廃棄物処理業ではなく“産業資源再生業”と呼ばれるようになるといいですね」と第一部を締めくくりました。
 

「再生」のバランスの整備と、消費者の意識改革も課題
 
第二部は、石坂氏、大阪経済大学大樟春秋会会長森田俊作氏(大和リース株式会社代表取締役会長)、山本学長による鼎談が行われました。
 
実は石坂氏と森田氏は旧知の仲。石坂氏が断行された改革について知った森田会長が、石坂産業がある埼玉県まで足を運んだことをきっかけに、経営のアドバイスや石坂産業のさまざまな取り組みに協賛されています。
 
鼎談では森田氏が、プラスチック問題の解決とゴミ削減につながる商品開発のニュースを取り上げ、「プラスチックの使用は減るかもしれないが、製造のコストやエネルギー負荷は相当のよう。こういったアンバランスなものは『再生』といえないのでは」と提言。続いて石坂氏は自社の事業から「木材の端材を使った再生紙がありますが、『新しい紙、白い紙でないと』と購買や利用につながっていないケースも。消費者の概念を変える取り組みも必要かと思います」と発言され、多くの聴講者が賛同しメモを取る姿も見られました。
 
最後に、山本学長から「石坂産業は『ゴミをゴミにしない社会をつくりたい。資源のない日本の役に立ちたい』という思いから1967年に創業されました。これは今まさに私たちが実行しなければならないことであり、創業者の未来志向も、その思いを継承する石坂社長も素晴らしいと思います。また、産業廃棄物の資源化、里山再生などについて、ビジネスとしての利益、価値を創出する仕組みを構築されている点も経済・経営を学ぶ学生たちの参考になるはずです」と講演を振り返りました。ゴミは資源であるという意識を高め、広めていく大切さを感じる講演となりました。