2026/8/3

製造業コンサルは「好き」から始まる気がする

辻之内さん、バトンパスをありがとうございます。
辻之内さんは既に独立され、企業に頼らずご自身でコンサルティング業務をされています。演習当初から地に足の着いた、顧客にとって受け入れられやすいご意見を話される方です。サラリーマン、MBA、独立と、一朝一夕では真似できないご経歴を背景にした厚みのあるコミュニケーションが魅力の同期です。前回のブログはこちらからご覧ください。
 
こんにちは。今回のブログを担当する能戸と申します。
猛暑の折の一次試験、お疲れさまでした。手応えはいかがでしたでしょうか? 
養成課程ではカリキュラムの中心、診断実習の第2回目をお盆明けに控えています。今回は製造業編の実習ということで、本稿の主題は製造業です。

製造業コンサルタントは、製造業が好きか?

とある講師の方が、製造業あるあるとして「前提としてコンサルタントが嫌い」と説明されていました。製造業で従事している私も同意で、正論やフレームワークを連打されてもしんどいですし、客の方が技術に詳しく、何より口だけ動かして製品・モノに触ろうとせず、モノのことをロクに知らない。なんなら「大してモノに興味ないでしょ」という人が名乗るのが「コンサルタント」という肩書への率直な印象です。
なので私は、コンサルタントとして製造業を支援するなら勉強よりもまず「好きになること」が必要と思います。製造業のみならず、興味がない人にコンサルなんてされても現場は迷惑で、それよりも業界が好きな人と一緒に仕事がしたいと思いませんか?好きな人には熱量があり、熱量がある人は結局都度勉強するからです。
私が会ってきた製造業で働く尊敬できる人は皆さん、自分の言葉や文脈で「なぜ製造業が好きなのか?」という問いに答えてくれます。人によっては論理の飛躍や、持ち出す知識に不揃いはあるものの、それはその人の個性で味なんじゃないかなと流しつつ、各々のキャリアの中で本心と向き合って「好きな理由」を築いてこられたのだと思います。
今日は私なりの、製造業の魅力に映ったところをこじつけ多めに書いていきます。コンサルの方、二次試験に進まれる方、そうでない方、皆さまの今後の仕事の「好きな理由」づくりの参考になれば幸いです。

私の製造業キャリアについて

社会人経験10年目の33歳です。できることは製造業への営業です。
人文科学系の修士課程を修了後、エネルギー系Sier、FAメーカー、非鉄金属メーカーを転々としてきました。ほぼ全て営業キャリアで、現場課題と技術を繋いで働いています。生産ラインの消費電力可視化、工作機械・付帯機の内部制御機器提案、旅客機尾翼生産ラインの焼成ヒータ故障予兆診断、車載メーカへのMBSEの導入支援など、工場や蓄電所の生産性UP・コスト低減課題、メカ・エレキ・ソフトの設計効率化など、商材の有形・無形は問わずに活動しています。
課程修了後はメーカーで何かしらの実務を継続予定ですが、養成課程では実務では流してしまうことも体系的に学ぶことで点が線で繋がる感覚があり、学びが多いです。

「誰が言うか」<「何を言うか」<<<「動くか」

さて、私は製造業が好きです。なぜなら魅力があるからです。と言っても、製造業には色々魅力があります。「雇用者数が多い」「技術力を活かして仕事ができる」、「平均給与・賞与額が高い」……など、パッと挙げてもすぐ出ますが、私なりの二つを紹介します。
一つ目は、「動くことはよいこと」という価値観です。
当たり前ですが製品開発では機能しないものを作ってもどうにもなりません。どれだけ完璧な仕様でも、その通りに実装・製造されなければ意味がありません。作り手が何を言うかよりも、現実がどうなっているかが重要視される文化のことで、業界ではお馴染みの三現主義(現場、現物、現実)とか五ゲン主義(先の三つに加えて原理、原則)と呼ばれる価値観です。
数年前に某感染症が流行した際、製造業界隈は最悪でした。グローバルへの過度な依存が招いたサプライチェーンの大混乱、圧倒的な物不足です。
私はFAメーカーの末端社員でしたが、お客様からは「モノがない」「なんで作らない」「ウチに物を作るなと言うのか」「本社に訪問するから社長に合わせろ」など、来る日も来る日も温かいお言葉を頂いておりました。
一方の自社内はどうかと翻れば「生産能力の増強を図っています」とアナウンスが繰り返されるものの、システムが指す在庫数はいつまでもゼロのまま。仕方ないので他社製品の仕様を見、デモ機材を持って上司と方々へご説明参りをしたのは記憶に新しいです。
偉い人が何を言っても、工場は止まってしまえば終わりです。
どれだけよい言葉を掲げても、高い役職でも同じで、工場は動かなければダメです。最初に書いた製品開発なら、作った人がどんな主義信条でも関係なく、パソコンなり車なりが仕様通りに動けばよいのです。製造業では思想も役職も関係なく、どのように動かすか、(安全含め)どのように止めないかを考え、実践することが優先されます。そういう分かりやすく、比較的スカッとした価値観で仕事が進むのが製造業の魅力と思います。

「モノがある」という謎の魅力の正体

もう一つは、「モノがある」ことです。
これはよく聞く話で「モノ(=製品)があるっていいよね」というやつです。けれど、この感覚はなんなのでしょうか?
少しプライベートの話になりますが、私は趣味が多い方で、卓球をやります。使うラケットはペンホルダーというもので、これはプロが好むシェークハンドラケットの合板構成とは異なり、10mmの分厚い板きれ一枚の作りをしています。私のものでも樹齢百年を超える木曽の檜が使われていて、繊維が真っ直ぐに通った箇所だけが切り出されています。丁寧にプレスされた表面を眺めると、ギュッと詰まった茶色の木目が非常に綺麗で、心身が疲れた時などにはおもむろに取り出して、妻に隠れて眺めたりしています。
先に書いたように、私は人文科学系の人間ですから、材料物性だとか機械機構だとかは明るくなく、せいぜい仕事で使うものを都度調べる程度です。
けれどもいつからか、モノを見るとモノの特徴と背景を考えるようになりました。その特徴や機能を得るために、どんな材料、機構、設計、加工工程、装置、数量で作るのか。そうするために今は何が足りていないのか。どういう姿になれば良いのか。仕事もそんな感じで、私もお客様もモノの特徴を見て、設計や工程を話します。
ところで、いまから約300年前にプロイセン王国で生まれたイマヌエル・カントという人がいました。人間はどうやって物事を正しく知り、理解できるのかということを考える「認識論」の大家です。
曰く、人は対象の真の姿「物自体」を直接に認識できず、あくまで人の感覚からなる主観の枠組みを通した「現象」としてのみ捉えられるそうです。
カントの認識論の研究は一人の人間(主観)の意識のなかで、どのように客観的知識が成立するかが主題ですが、製造業におけるコミュニケーションは、この認識論の応用と考えると面白いです。
現状の不完全な「現象」の物理的な特徴から、背景にある因果関係(設計、工程など)を思考によって逆算し、その不足分を補正することで、皆が共有可能な客観的なあるべき姿を作ることで相互理解が成立します。ミソなのは、「対象が人の認識を規定する」のではなく、「人の認識形式が対象を構成する」点です。製造業はモノを作るのが仕事なわけですから、「エンジニアリングの論理形式によって、お客様とモノの共通認識を構成」するという認識論が仕事の前提になっている業種と言えます。
つまり私(や我々)が憑り付かれている「モノがある」というシンプルな魅力の正体は「人間同士の主観と客観に基づく相互理解を可能にする認識形式の基盤があること」です。
モノがあるって、いいですね。(長かった)

大阪経済大学養成課程の魅力は、スッキリしなさ

ブログという自由な媒体に甘え、徒然書いてしまいました。
最後になりますが、私は診断士として各種フレームワークや定量データを抑えながらも、診断先企業の魅力が何で、またどのような思考の足跡でそれを魅力と定めたのかを診る目を鍛えることが重要と考えています。そしてまた大阪経済大学の養成課程は、それが叶う環境と思います。
講義中、最後まで正解が出ない不完全燃焼の場面、スッキリしない場面があります。経営者とのリアルな邂逅(実践)と座学(理論)をただカリキュラムとして揃えているのならもっと「講義」「現実」を割り切った内容でよく、起こりえません。
一方でこの場面は、大経大が「実践と理論との辻褄の合わなさ」を考え抜くための知的な体力を養える環境の証とも思います。正論の羅列に留まらずに、事実と理由に泥臭く向き合いたい方にはおすすめの課程です。素敵な同期と出会えます。

次のバトン

次回のブログは松山さんです。
この方がいらっしゃると、空気が明るくなります。
松山さんとは第一回の診断実習では同じ班、訪問先店舗のインタビューのペアでしたが、終始和やかな雰囲気を演出してくださり、とても感謝しています。
洞察とストーリー性に溢れる思考が素敵な松山さんのブログをお楽しみに!